- 著者
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馬塲 杉夫
- 出版者
- 慶應義塾大学
- 雑誌
- 三田商学研究 (ISSN:0544571X)
- 巻号頁・発行日
- vol.37, no.6, pp.p17-36, 1995-02
本論文は,人間観(企業において人間をどのように捉えるべきか),及び人間性(そのような人間の特質),加えて,企業組織とそこに所属する人間個人の目的の適合を基礎として,人間資源管理の役割を明らかにするものである。まずテイラーは,企業における人間の存在を明らかにしたが,その人間は,自ら目的を持って意思決定を行う存在ではなかった。そして彼は,人間機械モデルに基づいた管理方法を打ち出した。これに対し,バーナードやサイモン,マクレガー,シャインは,機械モデルを批判した。彼らは,企業における人間について,企業は人間によって機能するという,企業の主体的役割を担荷していることを明らかにし,加えて,物理的,生物的,社会的関係の中で存在している,と指摘した。そして,その人間の特質は,制限された合理性の中で,目的指向的に行動し,それらは,過去の経験,状況,役割的に複雑であることを明示した。このような人間性を論証するために,人間の生理的基盤からもこれらの特質についてアプローチした。まず,人間を情報処理システムとして取り上げ,その中心は脳にあることを指摘する。制限された合理性については,記憶貯蔵能力の制約,人間の体内,あるいは体外の状況により,異なる価値評価を下す機構,記憶想起の限界,無髄神経やホルモンによる神経伝達により説明される。また目的指向性は,生存というレベルを超えた高次の目的達成において,大脳皮質からの制御が行われることによって支持される。複雑性については,様々な長期記憶とそれを基盤とする思考回路から証明される。このような特質を持つ人間と企業との関係について,両者の目的の適合を基盤として考えた場合,企業は人間観を踏まえて,人間個人の持つ目的と,企業の目的の適合がはかられるように,人間個人のアウトプットを高めるよう働きかけていかなければならない。このアウトプットを高める方法は,能力の獲得と能力の発揮という2つが考えられる。そして,人間資源管理において,人間の目的指向的行動を前提とするならば,企業組織と人間個人の目的が適合するよう,合目的的能力の獲得と発揮を目指さなければならない。