著者
十川 廣國 今口 忠政 岡本 大輔 高橋 美樹 馬塲 杉夫 今野 喜文 許 伸江 横尾 陽道
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.125-132, 2000-06-25

経済を活性化させる起爆剤として,新しいベンチャー企業の創出に注目が集まっている。ベンチャー企業の創出には,基幹となるアイデアや技術をもった起業家の存在が必要不可欠であるが,人材を輩出する大学,基礎技術を産業界に移転するTLO,新規事業の立ち上げを支援するベンチャーキャピタル,支援のための制度を整備する行政などが連携して起業を支援する体制を作ることも極めて重要である。地方自治体の中には,そのようなベンチャー企業の育成に積極的に取り組み,徐々に成果を生んでいる地域もみられる。中でも,山口県は「山口チャレンジモデル」という民間・大学・行政の連携を強化することによって,新規の産業創造に積極的に取り組んでいる自治体である。われわれは,山口大学地域共同研究開発センター,山口県庁,山口大学経済学部を訪問して,ベンチャー企業の創出に対する大学の役割,行政の役割をヒアリング調査し,さらに山口県と連携した山口キャピタルの金融支援の現状について調査した。その結果,山口大学工学部を中心としたTLOを通じたリエゾン活動,山口県と山口大学経済学部との連携による人材育成や金融支援が効果的に機能している実態を把握することができた。さらに,このような取り組みのもとに,急成長しているファーストリテイリング社(ユニクロ),LSI設計に特化した創業間もないプライムゲート社を訪問して,経営者の企業経営に対する考え方,経営の現状と課題についてインタビューすることができた。本資料は,2社のインタビュー記録を取りまとめたものである。
著者
馬塲 杉夫
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.p17-36, 1995-02

本論文は,人間観(企業において人間をどのように捉えるべきか),及び人間性(そのような人間の特質),加えて,企業組織とそこに所属する人間個人の目的の適合を基礎として,人間資源管理の役割を明らかにするものである。まずテイラーは,企業における人間の存在を明らかにしたが,その人間は,自ら目的を持って意思決定を行う存在ではなかった。そして彼は,人間機械モデルに基づいた管理方法を打ち出した。これに対し,バーナードやサイモン,マクレガー,シャインは,機械モデルを批判した。彼らは,企業における人間について,企業は人間によって機能するという,企業の主体的役割を担荷していることを明らかにし,加えて,物理的,生物的,社会的関係の中で存在している,と指摘した。そして,その人間の特質は,制限された合理性の中で,目的指向的に行動し,それらは,過去の経験,状況,役割的に複雑であることを明示した。このような人間性を論証するために,人間の生理的基盤からもこれらの特質についてアプローチした。まず,人間を情報処理システムとして取り上げ,その中心は脳にあることを指摘する。制限された合理性については,記憶貯蔵能力の制約,人間の体内,あるいは体外の状況により,異なる価値評価を下す機構,記憶想起の限界,無髄神経やホルモンによる神経伝達により説明される。また目的指向性は,生存というレベルを超えた高次の目的達成において,大脳皮質からの制御が行われることによって支持される。複雑性については,様々な長期記憶とそれを基盤とする思考回路から証明される。このような特質を持つ人間と企業との関係について,両者の目的の適合を基盤として考えた場合,企業は人間観を踏まえて,人間個人の持つ目的と,企業の目的の適合がはかられるように,人間個人のアウトプットを高めるよう働きかけていかなければならない。このアウトプットを高める方法は,能力の獲得と能力の発揮という2つが考えられる。そして,人間資源管理において,人間の目的指向的行動を前提とするならば,企業組織と人間個人の目的が適合するよう,合目的的能力の獲得と発揮を目指さなければならない。
著者
清水 龍瑩 岡本 大輔 海保 英孝 古川 靖洋 佐藤 和 出村 豊 伊藤 善夫 馬塲 杉夫 清水 馨 山崎 秀雄 山田 敏之 兼坂 晃始
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.69-89, 1994-10-25
被引用文献数
1

企業の活性化,個性化は優れた企業の条件である。企業の活性化とは,企業の全経営過程に好循環が起き,企業内のすべての構成員が新しいことへの挑戦意欲をもやし,創造性を発揮している状態をいう。企業の個性化とは,他社にまねられない強みをたえず強化,拡大していくことである。このうち,企業の活性化については,過去30年間,日本企業について行った実証研究による仮説の構築と検証の繰り返しから,ある程度理論が出来上がってきた。しかしながら,個性化については未だ十分な実証研究が行われていない。そこで今回,「企業の個性化」に焦点を絞って,アンケート調査を行ってみた。我々はまず,個性化指標を作成した。議論の中で,考えうる様々な個性化現象のうち,プラスの太い効果に注目しなければ,意味が消失してしまうことが明らかになった。このような観点で,他社にまねられない幾つかの強みを合成し,指標を作成した。更に,他社にまねられない強みの強化・拡大と業績との関連を考えた。そして"個性化している企業は業績をあげている"という体系仮説を基盤として,個性化を推進する変数(トップマネジメント,人事管理方針,製品開発,主力製品,経営管理方針,財務管理方針)と個性化,業績についての多くの単称仮説を構築し,QAQF(Quantitative Analysis for Qualitative Factors)を用いて分析を試みた。調査の結果,様々な体系仮説の構築が可能になった。たとえば,"大企業では経営者の個性化が企業業績の向上に貢献し,中堅企業では製品の個性化が企業業績の向上に貢献する","現在の日本企業では,技術,市場について個性的な戦略をたて,経営管理を行っている企業は高い業績をあげている"などである。もちろんこれら体系仮説が理論にまでなるには,今後相当期間調査が繰り返され,仮説の構築,検証が必要となるであろう。