著者
菅原 十一
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.411-423, 2001-12

東京では, 著しい都市化に伴い年々気温が上昇し, 湿度が低下している。自然教育園は,都心部に残された自然緑地である。このため都市の高温化などによる自然生態系への影響が懸念されている。本報告は, 自然教育園で気象観測が開始されてから過去30年間(1971年〜2000年)の気温及び湿度, 降水量の平均値について, 東京の気候表との比較をとおし検討した。東京都内の平年気温は15.9℃, 平年最高気温は19.7℃, 平年最低気温は12.5℃を示す。この内, 年代別では, 特に, 最低気温の年平均値が'70年代12.1℃, '80年代12.4℃, '90年代13.1℃を示し, 都市化の影響によリ気温は年々上昇する傾向がみられた。園内の平年気温は15.3℃, 平年最高気温は19.2℃, 平年最低気温は12.5℃を示し, 東京都内と比較し平年気温が0.6℃差, 平年最高気温が0.5℃差, 平年最低気温が1.1℃差と低くなっていた。さらに, 年代別の年平均気温では'70年代15.1℃, '80年代15.3℃, '90年代15.4℃, 年最高気温は'70年代19.1℃, '80年代19.2℃, '90年代19.4℃, 年最低気温は'70年代11.3℃, '80年代11.5℃, '90年代11.4℃を示し, 園内では東京都内と比較し年々の気温上昇が小さくなっていた。平年湿度については, 東京都内が63%に対し, 園内は69%と東京都内より6%の高湿度がたもたれていた。また, 年代別にみた年平均湿度の経年変化では, 東京都内が62%〜63%, 園内が68%〜69%の範囲を示し, 過去30年間では都市の低湿度化の傾向が小さく, 横ばい状態となっていた。この他, 降水量については, もともと年による変動差が大きいため現状報告に止めた。平年の年間雨量は, 東京都内が1,465.6mm, 園内が1,305.0mmを示した。この内,園内の雨量は樹林の影響により阻止され東京都内の89%に止まり減少していた。また, 梅雨期(6月, 7月)と秋霧期(9月, 10月)には雨量が増加し, 年間雨量の50%弱を占め, 反対に冬季(12月, 1〜2月)は雨量が減少し年間雨量の10%を示していた。この結果, 園内では, 高木層及び亜高木層,低木層などからなる樹林の効果により, 気温及び湿度変化がやわらげられ, また, 隣接する都市の高温・低湿度化による影響が小さく抑えられていることが確かめられた。そして, 園内では'60年代(昭和40年前後)の東京都内に相当する気温及び湿度環境がたもたれていると推測された。

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こんな論文どうですか? 自然教育園の微気象(第8報)過去30年間の気温, 湿度, 降水量の平均値の変化,2001 http://ci.nii.ac.jp/naid/110004312788

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