著者
濱尾 章二
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.63-69, 2008-03

自然教育園において,2002〜2007年の間,ラインセンサスや観察では記録されず,捕獲・拾得・保護によってのみ発見された種を報告した。ノスリ・アオバズクは近年記録が少なく,またオオコノハズクは3例目となる希少な記録であった。また,ミゾゴイは今まで記録のない種であるが,今回片方の翼の主として骨格のみの拾得であり,他所から運ばれた可能性もあるため,参考記録にとどめた。観察が困難な夜行性の種や稀に飛来する種の生息を明らかにするためには,捕獲調査や保護・拾得情報の蓄積が重要であると考えられる。
著者
菅原 十一
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.27-35, 1982-03

1979年の台風第20号の影響によって発生した被害樹木を指標に強風地域分布の推定を行なった。その結果, 推測の域を出ないが, 次に示す傾向がうかがえた。(1) この台風の最接近時には, 近年にない最大級の強風となった。風向 : S及びSW風速 : 平均27.0〜31.Om/s, 瞬間最大38.5m/s(2) 被害樹木は, 総本数92本におよび, 近年にない最大級の被害例となった。(3) 被害樹木の分布には, 局地性がみられるとともに, その主な要因として地形, 植生, 道路などが考えられた。(4) 被害樹木分布及びその要因などを考慮にいれ強風地域分布図を作成した。(5) その結果, 数ヶ所に強風の収束地域の存在が推定された。特に, 水鳥の沼よりイモリの池にかけての谷筋付近では, 風速が強く, 収束域の幅が広くなると考えられる。(6) 風下側に面した傾斜地及び森林内では, 強風が著しく弱まる傾向がみられた。
著者
久居 宣夫 千羽 晋示 矢野 亮 菅原 十一
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.1-13, 1987-03

1. アズマヒキガエルは行動域内で冬眠し, 早春の繁殖期には, そこから池まで移動する。2. 繁殖期には, 大部分のヒキガエルは毎年同じ池に集まり繁殖活動を行う。しかし, 一部は池を変えることがあり, この場合, ほとんどが一度だけである。そして, 移動する池は近隣の繁殖池の間で行われる例がもっとも多い。3. 繁殖活動後は再び行動域にもどる。そして, 行動域にもどる時は, 特に池から離れている場合, 池の付近で1か月以上春眠し, 晩春から初夏になってから移動するものと考えられる。
著者
萩原 信介
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.11-20, 1992-03

固着生活を営む植物も種子散布時には様々な方法で動きを持つ。中でも翼を持ち空をグライダーのように滑空するアルソミトラマクロカルパの種子は特異であり, 生物学のみならず様々な方面での教育的価値が高いと思われる。この種子の構造を計測し, それに基ずいて発泡スチロールの薄片を用いて実物と用様の飛翔する模型が作られた。
著者
萩原 信介
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.1-17, 1983-03

マツ林床下におけるシュロの実生を用いて約3年間にわたる月別乾物生長, 死亡要因を調べ, 同時に林内照度, sunfecks, 気温の季節変化を測定しシュロの生長との対応を試みた。また前報(萩原, 1980a, b)の被陰格子内の生育との比較を行った。以下次のことが明らかになった。1. 林内の相対照度は夏季0.1%と低く, 4月下旬が最も高く2.5%となった。2. Sunfecksの割合は夏季2.3%と低く, 4月下旬が最も高く9.0%であった。3. 林外に比較し最低気温は冬で2.5℃高く, 最高気温は夏で2.5℃低かった。4. 実生の死亡要因としては胚軸伸長期の乾燥死が5%, 秋の落葉・落枝に被覆された死亡が3年間で18%, 1年目の冬の乾燥死によるものが15%, 虫害や競争によるものが4%であり照度不足が直接の原因と考えられる死亡は認められなかった。5. 乾物生長はきわめて遅く3年間で320mgと種子重の350mgまで達しなかった。6. 生長は年間を通し直線的で明瞭な生長休止期は認められなかった。7. 被陰格子内の実生との比較では2%照度区とほぼ等しい生長をしていることが明らかとなり, sunfecksの効果と秋から春の照度の上昇が生長の促進また生活の維持に大きく寄与していると考えられた。8. 1年目の実生の冬期の乾燥害は分布北限地域では, シュロの定着に大きな障害となっていることが予想された。
著者
久居 宣夫
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.9-19, 1975-12

1. 東京都港区の自然教育園において, 1973年5月〜1975年5月の2年間に18回のヒキガエルの生態調査を実施した。調査は, 指切断法によって標識をし, 体重, 体長, 口幅などの測定後放逐し, 同一個体の追跡によって成長を調べた。2. 各調査時における体重ヒストグラムと, 同一個体の追跡調査によって, ヒキガエルの成長は以下のように明らかになった。0才5月下旬体重0.05g, 体長0.9cm8月中旬体重9±5g, 体長4.0±0.8cm10月上旬体重25±12g, 体長5.9±1.1cm1才5月上旬体重36±16g, 体長7.0±0.9cm10月下旬体重129±35g, 体長10.7±1.Ocm2才5月中旬体重141±32g, 体長11.2±1.1cm雌雄の性別による成長の差は, 陸上にあがってから2年間では認められなかったが, 産卵期での体重の差は, 雌の方が雄よりも80〜100g重かった。3. ヒキガエルの体重, 体長, 口幅のそれぞれの相対成長は, 1974年5月の場合, 次の式で表わされる。体重-体長 : Y=0.109X^<2.92>(Xは体長, Yは体重)体重-口幅 : Y=2.180X^<3.04>(Xは口幅, Yは体重)体長-口幅 : Y=2.815X^<1.03>(Xは口幅, Yは体長)これらの相対成長は季節による変化がなく, また, 雌雄, 未成熟個体と成熟個体による差異も認められなかった。4. 雄個体の場合, 多くは1才の秋(上陸後約17〜18カ月)に性成熟し, 翌春の産卵期には出現する。しかし, 雌個体が性成熟するのは, 雄個体より少なくてもさらに1年後になるものと推定される。
著者
菅原 十一
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.5-12, 1998-03

南寄りの風による自然教育園の強風影響区域については, 既にその一部が報告されている(菅原, 1982)。今回の報告は, 1996年台風第17号の影響による風害木をもとに推定した北寄り強風区域分布について述べた。1) この台風は, 同年9月22日八丈島一房総半島沖通過に伴い東京周辺に北寄り強風をもたらした。2) 自然教育園では, 台風最接近時に日最大瞬間風速NW31.7m/sを記録し, 多数の風害木が発生した。3) この風害木の局地的分布と風倒方向をもとに強風影響区域や風害木発生時の風向を推定した。4) 北寄りの強風影響区域分布は風向により2通りに大別された。風向NNW〜NNE範囲では2区域, 風向W〜NNWでは3区域が推定された。5) 強風影響区域は, 台地上や主風向に平行した園路, 風上側向き斜面, 林孔地などの地形, 林況条件でみられやすくなっていた。
著者
菅原 十一
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.37-46, 1995-03
被引用文献数
2

自然教育園は,マンモス都市「東京」の都心部にある自然緑地であるところがら,酸性雨の影響が大いに気になるところとなっている。今回は,1993年6月〜12月及び1994年1月〜12月の雨水pH測定結果をもとに,自然教育園における酸性雨の特性について検討を行った。(1) 雨水pH値は,最低pH3.7〜最高pH6.7の範囲にあるが,季節や雨量・雨の強弱によりさまざまに変化し,概略次にあげる傾向が指摘された。(2) 低pH5.0未満の酸性雨は,異なる2期の季節パターンを示していた。暖侯期を中心とした4月〜11月には全体の68%と過半数を占めるが,寒侯期を中心とした1月〜3月・12月には強い北西風が空を吹き払い40%に減少する傾向にある。(3) pH4.0未満の強酸性雨は,降り始め10分間に3mm〜6mm以上の急雨になったときみられやすい傾向にある。(4) 酸性雨は,降り始めにみられやすいが,雨量20mm以上では次第にpH5.6の通常雨にもどっていた。逆に,雨量20mm以下では,通常雨にもどりにくいことが考えられた。(5) 雨量1mm以下の霧雨や小雨及び降り始めの微少雨の間は,中和されやすく酸性雨となりにくい傾向にある。(6) このような「都心の中和霧」には,主に自動車走行により発生したコンクリートやアスファルトのアルカリ性粉塵が微細雨滴にとりこまれ中和剤の働きをしていると考えられた。(7) 自然教育園においては,年間降雨回数の内の78%が酸性雨となりやすく,特に,58%は一旦酸性雨となると通常雨に回復しにくい雨で占められる傾向にある。
著者
千羽 晋示
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.121-134, 1978-02

This report is the result obtained from a series of investigations on toads living in the National Park for Nature Study. I have not yet read the report by telemetry on investigations of moves by toads. Our efforts were undertaken by methods to confirm locations of toads. To pursue their moves, location telemetry was utilized. Our method was to place a transmitter on the back of toad, and we received by receiving apparatus (MM-BP type) produced by Meisei Electric firm. By this way, we confirmed locations, using flat board for survey. This method keeps high precision. As for the distance of 10 meters, maximum error might be I meter at most. Toads used had weight of 130 grams or more. Definitely they were adults. Transmitters had weight of 10-13 grams. Waves transmitted had 5 cycles. Investigation on five individuals at the same time was quite possible. However, in practice, interferences or jammings by hams, etc, were frequent. Consequently, investigation on two or three individuals was our inevitable limit. As for the entire result, examples of investigation are yet few. And definite figures are not yet gathered. However, roughly speaking, the following matters were clarified. As for toads, their particularly active zones of time are not yet ascertained. Comparatively speaking, encircling after sunset, midnight and before sunrise, their active time zones are likely to concentrate. The distance they move per day is fairly wide in individual difference, or by season, it seemed. But the maximum was 15-20 meters and the average was 15-20 meters. However, even the same toad differed in scope of move according to days. Or, sometimes similar tendency lasted. Interference by near-by toads has been considered nil. Anyhow, that point is not yet fully confirmed. Therefore, "home range" is regarded to exist. But it is difficult to form any positive assertion through the said recent investigation on the point.
著者
矢野 亮
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.107-120, 1978-02
被引用文献数
2

1. We made an ecological study of the Japanese toad (Bufo bufo japonicus SCHLEGEL) total 70 days in five years from may 1973 to march 1977,at the Nationa] Park for Nature Study, Minato-ku, Tokyo. The results are follows; 2. It seems that toads have cruising range to eating habits. 3. This cruising range seems to be settled in autumn, when toads are zero year old. 4. The breeding ponds are not always near their cruising range. Each individual has its own breeding pond and come there to breed. 5. Toads seem to have homing ability, after breeding they return to the former cruising range.
著者
吉行 瑞子
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.157-162, 2002-06
被引用文献数
1

The tunnel of Mogera wogura wogura (Temminck, 1843) was investigated at a cold temperature forest zone in Tsukuba Botanical Gardens, Ibaraki Prefecture. Japan, on 27-28 April, 1988. The research area was 24m^2 (6x4m). A cast of tunnel was made with plaster mixed with water; the diameter of the tunnel was measured in crosssection of the cast. The result revealed that the species makes the larger tunnel (average 56mm in diameter), difference from the other species so far known, e.g. Talpa europaea Linnaeus, 1758. The depth of the tunnel was also measured from the surface of the ground to the bottom of the tunnel. Three types of depth of tunnel were detected I.e., shallow (40-90 mm), medium (100-210mm), and deep tunnels (280-420mm). Among them, the medium type was found to be more dominant than the shallow and deep tunnels. The fortress with a nest charnber recorded in Talpa europaea were noto observed.
著者
奥富 清 亀井 裕幸
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.77-87, 1980-12

1. 近年異常に繁殖している自然教育園のシュロの開花・結実個体群, いわゆる成熟個体群の構成について調べた。またそれとの比較のため, 都下府中市栄町のヒノキ・シュロ混植林のシュロについても同じくその成熟個体群の構成を調べた。2. 1980年夏現在, 自然教育園に生育している幹高0.55m以上のシュロの総数は1,060本であった。このうち今までに開花歴のある成熟個体は186本(17.6%)で, それらは小は幹高1.5mクラスのものから大は現存個体中最大の5.2mクラスのものに及んでいる。また, シュロの総個体数に対する成熟個体数の割合は幹高の増大とともに増し, 4.1-4.5mクラスで80%を超える。3. 自然教育園での1980年夏の開花雌株は54本であった。これは各幹高にわたっているが, 幹高の増大に伴なう個体数の増減傾向はみとめられなかった。しかし総個体数に対する割合は幹高の増大に伴なって増加し, 4.1-4.5mクラスで通常の最大期待値である50%に達する。このことは, 自然教育園では今後, 幹高が4.5mを超えるシュロの約半数を種子供給源とみなしてよいことを示している。4. 自然教育園では, 各幹高クラスの成熟個体の割合, 当年開花雌株の割合とも, 林縁生のシュロの方が林内生のシュロよりも高い。5. 上記2〜5にあげた自然教育園のシュロ成熟個体群の構成上の諸傾向は, 府中市のヒノキ・シュロ混植林のシュロに対しても程度の差はあれ当てはまる。6. 1980年に自然教育園で開花した54本のシュロ雌株の種子生産量を概数10,000〜20,000粒と推定した。この数値は不作を示し, その原因として, この年の夏の日照不足・低温とともに, アオバハゴロモ幼虫のシュロ果穂への寄生があげられた。
著者
濱尾 章二 Veluz Maria J. S. 西海 功
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.17-26, 2006-03

日本のウグイス(Cettia diphone cantans)とフィリピンのウグイス(C. seebohmi)について、体サイズ測定値と翼の形を比較した。日本のウグイスでは雄が雌よりも明らかに人きく、雌雄のサイズ分布が重複しなかった。フィリピンの雄は日本の雄よりも小さく、雌は日本の雌と同じかやや大きかった(Table 1)。このことは、性的なサイズ二型が日本で顕著であることを示している。日本のウグイスは発達した一夫多妻の婚姻システムをもつが、フィリピンのウグイスは一夫一妻か、あまり発達していない一夫多妻の可能性が考えられる。翼の形では、フィリピンのウグイスは最も長い初列風切羽が翼の内側(体に近い側)にあり、翼差(最も長い初列風切と次列風切の長さの差;Fig.3)も小さく、日本のウグイスに比べて丸みのある翼をもっていた(Table 2)。丸みのある翼は渡りなどの長距離飛行には適さないが、素早く急角度で飛び立つことを可能にすると言われている。季節的な移動を行う日本のウグイスがとがった形の翼をもつのに対し、フィリピンのウグイスが丸い翼をもつのは、渡りをせず、よく茂ったやぶに棲むことに適応したものと考えられる。この研究は、国立科学博物館の「西太平洋の島弧の自然史科学的総合研究」の一環として行われたものである。
著者
坂上 寛一
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.51-60, 1979-03

自然教育園の代表的な植生であるシイ林, ミズキ林, コナラ林, マツ林の土壌の腐植の形態を分析するとともに, 樹種や水分環境との関連を考察した。得られた結果は以下のように要約される。1) 4地点の水分環境はシイ林が最も乾燥しており, コナラ林が最も湿潤であった。ミズキ林とマツ林は両者の中間であり, 林内雨量と土壌水量は高い相関があった。2) ミズキ林とコナラ林の落葉広葉樹はCa含量が高く, pHが比較的高いが, マツ林とシイ林はCa含量低く, pHも低い。また, マツ林の炭素率は他の3地点の2倍ほど高い。3) 堆積腐植の近似組成分はマツ林で脂質類が多く含まれ, 蛋白質が少ないこと, コナラ林でリグニンの比率が高いことなど地点によりいくらか相違がみられたが, 表層土の有機物組成はシイ林がリグニンを始め, 各成分の含量が高いことを除けば, 非常に近似した値を示し, 有機物組成では地点間の差異がなかった。4) 水酸ナトリウム抽出部, ピロリン酸ナトリウム抽出部とも概して腐植酸よりフルボ酸の割合が高かった。特にコナラ林でその傾向が著しかった。5)コナラ林は腐植化過程の初期段階にあり, 水酸化ナトリウム抽出部腐植酸はRp型→P型を示した。ミズキ林はコナラ林より腐植化が進んでいるが, P型→A型→P型と一定した傾向は示さなかった。シイ林とマツ林は腐植化過程の後期段階にあり, 火山灰土壌の主要な腐植化経路と考えられるPo型→B型→A型を示した。
著者
濱尾 章二
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.71-76, 2008-03

2006年8月20〜25日に東欧,ブルガリアにおいて渡り時期の鳥相を調査したところ,13目35科129種が観察された.タカ目・チドリ目・スズメ目で多くの種が記録されたこと,多数のモモイロペリカンPelecanus onocrotalus・ヨーロッパコウノトリCiconia ciconiaが記録されたことは,当地が秋季の渡りの重要なコース上の中継地であることを示唆する.この調査は(財)科学博物館後援会の寄付金による補助を得て行われた.
著者
菅原 十一
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.411-423, 2001-12

東京では, 著しい都市化に伴い年々気温が上昇し, 湿度が低下している。自然教育園は,都心部に残された自然緑地である。このため都市の高温化などによる自然生態系への影響が懸念されている。本報告は, 自然教育園で気象観測が開始されてから過去30年間(1971年〜2000年)の気温及び湿度, 降水量の平均値について, 東京の気候表との比較をとおし検討した。東京都内の平年気温は15.9℃, 平年最高気温は19.7℃, 平年最低気温は12.5℃を示す。この内, 年代別では, 特に, 最低気温の年平均値が'70年代12.1℃, '80年代12.4℃, '90年代13.1℃を示し, 都市化の影響によリ気温は年々上昇する傾向がみられた。園内の平年気温は15.3℃, 平年最高気温は19.2℃, 平年最低気温は12.5℃を示し, 東京都内と比較し平年気温が0.6℃差, 平年最高気温が0.5℃差, 平年最低気温が1.1℃差と低くなっていた。さらに, 年代別の年平均気温では'70年代15.1℃, '80年代15.3℃, '90年代15.4℃, 年最高気温は'70年代19.1℃, '80年代19.2℃, '90年代19.4℃, 年最低気温は'70年代11.3℃, '80年代11.5℃, '90年代11.4℃を示し, 園内では東京都内と比較し年々の気温上昇が小さくなっていた。平年湿度については, 東京都内が63%に対し, 園内は69%と東京都内より6%の高湿度がたもたれていた。また, 年代別にみた年平均湿度の経年変化では, 東京都内が62%〜63%, 園内が68%〜69%の範囲を示し, 過去30年間では都市の低湿度化の傾向が小さく, 横ばい状態となっていた。この他, 降水量については, もともと年による変動差が大きいため現状報告に止めた。平年の年間雨量は, 東京都内が1,465.6mm, 園内が1,305.0mmを示した。この内,園内の雨量は樹林の影響により阻止され東京都内の89%に止まり減少していた。また, 梅雨期(6月, 7月)と秋霧期(9月, 10月)には雨量が増加し, 年間雨量の50%弱を占め, 反対に冬季(12月, 1〜2月)は雨量が減少し年間雨量の10%を示していた。この結果, 園内では, 高木層及び亜高木層,低木層などからなる樹林の効果により, 気温及び湿度変化がやわらげられ, また, 隣接する都市の高温・低湿度化による影響が小さく抑えられていることが確かめられた。そして, 園内では'60年代(昭和40年前後)の東京都内に相当する気温及び湿度環境がたもたれていると推測された。