著者
林 泰成
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.271-284, 2005-09-30

本稿の目的は,道徳教育のさまざまな立場で前提されている他律から自律への発達図式を検討することである。まず,ピアジェの発生的認識論を取り上げ,ついで,それを精緻化したものととらえられるコールバーグの道徳性発達論を取り上げる。つぎに,それに対する批判として,ギリガンやノディングズのケア倫理あるいはケアリング倫理の考え方を検討する。こうした流れの中では,社会関係との関わりが十分に取り上げられないので,社会律を発達の一段階としたブルの考えを吟味し,さらに,ピアジェに対して社会関係の視点が抜け落ちている点を批判したワロンに言及する。最後に,心理学的な研究ではないが,自律から他律へと発達の図式を逆転させて考え,その後に,目的律あるいは神律を想定するフェニックスやティリッヒの考え方を取り上げる。結論として,他律から自律への発達図式には,それのみを妥当なものとして認める論拠はないということを示す。しかし,こう述べることはその図式を全面否定するということではない。さまざまな図式が同等の権利で主張可能であることを明らかにすることになる。

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