著者
村上 恭子
出版者
富山大学
雑誌
高岡短期大学紀要 (ISSN:09157387)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.207-219, 2005-03

ドン・デリロとトーマス・ピンチョンは、1997年に数ヶ月前後して長編小説を発表した。前者のUnderworldは20世紀後半のアメリカ史を背景とし、後者のMason&Dixonは18世紀半ばのアメリカ独立期の史実を描き、共に歴史を材料としている。しかも両者は産業資本主義社会の隠れた裏面に焦点をあて、その問題点を描いている。Underworldの場合、一見互いに無関係と思われる諸々の出来事がパラノイア的に関連付けて描かれており、その関連性が特異な効果を作品に与えている。作品には20世紀後半を特色付ける多くの要素--冷戦、核実験、軍産複合体、人種差別とそれに起因する暴動、反体制運動、種々の凶悪犯罪、メディア、廃棄物とそのリサイクル、社会の底辺に生きる人々等--が描かれているが、それらは共通のイメージや場所、小道具、数字等により相互が複雑に交錯し、関連付けられているのである。また諸々の事柄を関連付けて解釈するパラノイア的人物さえ登場している。これらの関連項は全てワールド・ワイド・ウェブで最終的に収斂しており、ネット社会に突入した現在の状況を象徴している。本論では、デリロのパラノイア的描き方を分析し、その効果を考察した。

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