- 著者
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内藤 勝
- 出版者
- 嘉悦大学
- 雑誌
- 嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
- 巻号頁・発行日
- vol.46, no.1, pp.85-107, 2003-10-01
最近の中国経済は、農工において発展が著しい。DGPは1兆2000億ドル(2000年)で世界第6位、しかし、12億7513万人の人口を抱えているので1人当たりの所得は847ドル(約9.3万円前後。1元は15円で計算した。)にすぎない。農林業のGDPに占める割合は17.4%である。1999年の食糧生産(米、小麦、トウモロコシ、コウリヤン、粟、その他の雑穀、いも類)の総計は5億839万tを記録している。(但し、2000年は減反政策により4億6212万tに減じた。)その内小麦は1億1440万t、米(籾)は2億0499万tを生産し米麦とも世界第1位である。その他、トウモロコシ1億262万tで世界2位、大豆1370万tで世界第4位である。かつて大躍進運動(1958〜60)の失敗と自然災害(華北の旱害、華南の水害)によって多数の餓死者を出した中国農業とは根本的に異なる。特に1978年以降、改革開放政策により農家生産請負責任制(以下個別経営と呼ぶ)が盛んになり最近(2000年)は、野菜、果物生産の増加も著しい。野菜は約4.2億tで世界1位、果物も約6.2億tで世界1位である。野菜の生産額は2500億元(3.7兆円)を上回り食糧についで2番目の額に急成長している。しかも、90年以降世界へ野菜が輸出され始め2000年のわが国への野菜輸出量は、139万tで15.8億ドルに昇る。1991年以降、我が国の農産物輸入はアメリカを抜いて中国が第1位となった。特に、華北平原(黄河がつくった中国東部の平原を指す。)からの野菜の輸入が急増している。そこで、この生産増加の要因が何処にあるのか?それを水と農法の面から考察した。特に、低エントロピー源としての水は、農業及び工業いや人類の生存にとって欠くことができない。中国農業は80年代に入るや灌漑設備が充実してきた。華北平原では黄河流域の地下水を電気ポンプで揚水する方法が90年代より急激に広まった。乾緑地帯に水が導入された事は、画期的なことであった。華北における成長要因は自由化政策による野菜、果物の需要の増加、その生産を可能にした地下水による灌漑の整備と言えよう。他方、地下水消費の増加は黄河の断流をもたらし塩害をまねいている。ここに農産物貿易の問題点がある。尚、本稿は2001〜2年にわたる山東省青州市近辺の農業調査をまとめたものである。(筆者は1980年遼寧大学の王將方氏、瀋陽大學の翁麗霞氏と瀋陽近辺の調査をしたことがある。それは個人農場制初期の調査である。あれから10年の中国農業の変化も視点に入れ考察した。)