著者
左近司 祥子
出版者
学習院大学
雑誌
人文 (ISSN:18817920)
巻号頁・発行日
no.4, pp.5-27, 2005

美を扱う芸術と善を扱う哲学といえば、プラトンは、対話篇『国家』で両者を対立関係においていたと普通思われている。この論文では、そういったプラトンが、善と美をどう扱っていたかを考えてみたい。古代ギリシャ人は善と美を同一視していたと通常理解されている。プラトンは、この二つの言葉にどういうイメージを持っていたかをまず指摘する。その作業は、プラトンが対話編の中で、その単語をどういう風に使用しているかを見ることによってなされる。さらに、プラトンの十八番とも言われるイデアに話を移し、このばあい、善のイデアと美のイデアのことだが、それらについてはプラトンはどう考えていたのかを明らかにする。そのことを通して、プラトンが体系を語ろうとした哲学者でなかったことも再確認される。 ここからがこの論文の主要部分である。彼の哲学を体系化しなかったプラトンに反して、彼の哲学を体系化しようとした哲学者たちがいる。紀元後三世紀に活躍した、ネオ・プラトニストのプロティノスである。彼が善のイデアと美のイデアをどう関係付け、彼の体系の中に位置づけたかを考え、彼にとっての、善を追求する哲学における美の役割を明らかにしていく。そして、実はこの彼の美の思想が、ルネサンス期、ルネサンスのネオ・プラトニスト、M. フィチーノを通して、芸術を志す人々に大きな影響を与えていったのである。 この論文では、1998 年に出たLaurent 氏の論文を足がかりに、プロティノスの語る「美」の真意を明らかにしたい。そのときに、頭に入れておかねばならないのは、体系化を拒否していた人の作品を体系化したという点である。体系的に、だから、鳥瞰図として全体を見ることは当然だが、それだけではない。プラトンがこだわり続けた、「憧れ心」のことである。この心を持って、上のものを仰ぎ見ている人間にとって、ことはいったいどういう仕方で、どういう風に現れてくるのかという関心をもって語る語り方も忘れてはいけないということである。そういった観点からは美はどうなるのか。哲学を志すものにとって、美とは何なのかを明らかにするのが、この論文の主旨である。As a neo-Platonist, Plotinus tried to systematize Plato's philosophical theory, which Plato himself had never done, by drawing an objective and comprehensive bird's-eye view: the universal hierarchy with the One(or the Good)at its summit. This simple scheme is not sufficient, however, to explain Plato's whole theory, in which the continuous desire for wisdom has such significance. Therefore, Plotinus contrived another explanation based on humans' yearing for the One. Previous studies on Plotinus paid little attention to the importance of this perspective in his philosophy. To emphasize the importance, take the beauty for instance, which is defined as a screen before the One. According to only the former explanation, the beauty is a mere horizon to distinguish the intelligible world (nohtØq køsmoq)located in second rank from the One, while the latter point of view reveals the beauty's indispensability to philosophy, however dangerous it may be. That is why neo- Platonism flourished in the Renaissance period, the century of beauty.

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