- 著者
-
加瀬 和俊
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 社會科學研究 (ISSN:03873307)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, no.2, pp.141-184, 2005-02-07
本稿は中高等教育修了者の就職状況が著しく悪化し,すでに就職していた官公庁・民間企業の職員層の解雇も増加した状況の下で,1929年度から開始された小額給料生活者失業救済事業について,その立案過程・実施過程の特徴を実証的に検討したものである.本稿の分析の結果,失業職員層を対象としたこの事業は,日雇失業者を対象とした失業救済事業とはその内容・性格が大きく異ならざるをえなかったことが明らかになり,失業対策を労働者の階層性,労働市場の分断性を考慮せずに論じることはできないことが確認できた.また,結果的に見れば,失業問題打開のために中高等教育修了者数を減少させよとする財界の主張が実現せず,日中戦争前後の景気回復の中で職員層失業問題がなし崩し的に解消されたのであるから,この事業は客観的には,職員層の失業問題の深刻化を部分的に抑えつつ,景気回復までの時間稼ぎの意味を持ったと位置付けることができる.