- 著者
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宇野 重規
- 出版者
- 東京大学社会科学研究所
- 雑誌
- 社會科學研究 (ISSN:03873307)
- 巻号頁・発行日
- vol.62, no.3, pp.153-172, 2011
本稿は「労働」と「格差」について, 政治哲学の立場からアプローチする. 現代社会において, 労働は生産力のみならず社会的なきずなをもたらし, さらに人々に自己実現の機会を与えている. 対するに格差は, 社会の構成員の間に不平等感や不公正感を生み出すことで, 社会の分断をもたらす危険性をもつ. このように労働と格差は, 正負の意味で政治哲学の重要なテーマであるが, これまでの政治哲学は必ずしも積極的に向き合ってこなかった. その理由を政治思想の歴史に探ると同時に, 現代において労働と格差の問題を積極的に論じている三人の政治哲学者の議論を比較する. この場合, メーダが, 政治哲学と経済学的思考を峻別するのに対し, ロールズは, ある程度, 経済学的思考も取り入れつつ, 独自の政治哲学を構想する. また, 現代社会が大きく労働に依存している現状に対しメーダが批判的であるのと比べ, ネグリのように, あくまで労働の場を通じて社会の変革を目指す政治哲学もある. 三者の比較の上に, 新たな労働と格差の政治哲学を展望する.This article focuses on the problem of labor and inequality from the perspective of political philosophy. In contemporary society, labor is important not only as a source of productivity, but also as a social relationship and an opportunity for self-realization. On the other hand, inequality divides the society by aggravating the sense unfairness among its members. This shows the importance of the theme of labor and inequality for political philosophy, but these two themes haven't been fully discussed by political philosophers. The article analyses the reason of their reluctance in the history of political thought. And by comparing three contemporary political philosophers, Dominique Méda, John Rawls and Antonio Negri, it considers the future possibility of political philosophy for the problem of labor and inequality.