著者
中村 かれん
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3/4, pp.184-205, 2006-03-28

日本の聴覚障害者を代表する団体は,政府の利益を推進するよう設計された法的環境のなかで単に活動しているというだけでなく,さらに進んで,システムを自己の利益のために操作することにも成功している.この団体は,政治権力による統制を避けるために,団体をアメーバのように細分化し,団体構造の柔軟性を保ってきた.本論文は,日本の市民社会構造の中での政治権力とそれに対する抵抗の問題を取り上げる.
著者
牟田 和恵
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.97-116, 2006-03-28

日本における家族の歴史社会学研究の蓄積について,とくに隣接領域である家族社会学との関連においてレビューする.その際,80年代以降に若手フェミニスト研究者たちを中心的担い手として展開した「近代家族」論に注目し,それが,家族をめぐる学問領域においてもっていた意味と意義を確認する.その上で,ポストモダン・フェミニズムを経た新たなジェンダー概念の導入により,「ジェンダー家族」という概念を提起し,日本近代の天皇制と家族に関する分析を行なう.結論として,家族の歴史社会学的研究を現代に生かしていく方途を提言する.
著者
クレーマ ハンス・マーティン 楠 綾子
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.150-170, 2007-12

本稿は,1948年から1950年にかけて行われた「共産主義的」大学教員の追放(レッド・パージ)を,いわゆる占領政策の「逆コース」の一例として検討する.本稿は,レッド・パージは,米国の対日政策の変化によるものではなく,むしろ日本主導で行われたと考える.反共主義は1946年以降,教育行政の思想においては不可欠の要素であった.しかしながら,反共主義が処罰的行動へと直結したわけではない.政治色よりも大学での地位の低さといった要素が個人の追放の決定要因になったことは,追放が単に上からの命令によるものではなかったことを示唆している.本稿は,旧制弘前高校の哲学講師と京都府立医科大学の解剖学教授のふたつの追放の事例からこれを証明するものである.「逆コース」を従来の研究のようにとらえれば,日米それぞれの担当者が占領政策にいかなる貢献をしたのかが見落とされることになる.占領政策の形成に日本がいかなる役割を果たしたのかを明らかにするためには,中堅,下層レベルの行動を考慮に入れて占領期の正確な実像を描く必要がある.
著者
岡本 至
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.109-139, 2005-02-07

1990年代の「金融ビッグバン」は,日本の金融システムの抜本的自由化を図り,自由で公正でグローバルな金融市場を創出することを目指したものだった.しかし現在,証券市場の停滞や銀行の不良債権問題などに見るように,改革は所期の目的を果たしていない.これはなぜか,論文は,ビッグバン失敗の原因を,改革が証券業の自出化に留まり銀行部門への政府の保護が継続したこと,そして政府の証券市場に対する場当たり的介入にあることを確認する.その上で論文は,この問題は,改革が大蔵省証券局のイニシアティブによる「ボトムアップの改革」であったこと,大蔵省解体後,政治家が金融行政に介入するようになったこと,という金融ガバナンス上の問題に起因していると結論する.
著者
平田 恵子 山崎 由希子
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.162-190, 2006-01-31

国際規範に関する分析は概して,システムレベルの規範の普及に着目している.本稿では,そのような分析はネオリアリズム,新自由主義制度派,構造主義などに根ざしており,主に二つの問題があると主張する.一つは,それらの分析が普及に成功した規範の実例に多大な関心を払っているのに対し,失敗したものについては見過ごしていることである.もう一つの問題はそれらの分析が,規範の普及する過程において国際規範と国内構造がどのように関連しているかを検証できていないことである.この関連を見過ごすことにより,システムレベルの研究は国際規範が国内の領域に広がる具体的なメカニズムとプロセスを明らかにできないでいる.本稿は国内構造(特に文化・政治的構造)が国内レベルにおける国際規範の普及を可能にする主要要素であると主張する.日本における反捕鯨規範の受け入れ拒否を分析するにあたり本稿は,このような国内構造が反捕鯨規範の出現や受け入れを阻むフィルターとして機能していると論じるものである.
著者
ヒル ピーター (訳)橋本 陽子
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.186-209, 2005-02-07

本論は,1989年に「昭和」という時代が終ったあとに生じた,ヤクザ(暴力団)の企業活動の発展を探るものである.平成以降,ヤクザは,彼らの経済環境に大きな影響をあたえた二つの出来事と格闘してきた.その出来事とは,バブル経済の崩壊と1992年の暴対法(「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」)の施行である.バブル崩壊以後の経済不況のもとで,ヤクザは金になる事業を奪われたが,その分他の手段で補った.暴対法は,合法とされたヤクザの行為に新しい規制を加えたため,従来の行為による事業は高くつくことになったが,団員たちは新しい収入源の開拓に向うようになった.とりわけ,バブル経済と暴対法のダブルパンチヘの対応として増えたのが,覚せい剤取引や窃盗団であった.本論は,経済的な困難が長引くと,これまで彼らの世界を安定させてきた組織内あるいは組織間のメカニズムが弱体化するであろうという結論を導く.
著者
広田 照幸
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3/4, pp.137-155, 2006-03-28

本稿は,戦後日本において,歴史社会学的な観点から教育の諸問題を考察した研究の成立と発展をたどり,課題を検討する.1950年代には社会学的な歴史研究の4つの方向が存在した.しかし,1950年代後半からの高度成長によって,それらは途絶した.代わって,1960年前後に歴史研究に着手した若い教育社会学者たちは,機能主義的近代化論に依拠した研究を始めた.それは,当時の教育の課題と密接に関わった歴史研究であった.近代化が達成された後の1970年代半ば~1980年代には,教育社会学者たちは「学歴主義」に注目することで,行き詰まりを免れ,現代社会と密接に関わる歴史研究をまとめることができた.1990年代には教育の歴史社会学の研究成果は量的に増加した.そこでは,これまでの研究がより各論的に追求されるとともに,ポストモダン論などに刺激された言説研究や社会史研究が新たに登場した.しかし,学歴主義の風化,ポストモダン論の変質,大胆な教育改革などの社会の変化は,歴史研究の現代的意義を希薄なものにしてしまった.教育の歴史社会学は,現代社会の変化をふまえた,新たな問題の立て方を必要としている.
著者
愛敬 浩二
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5/6, pp.3-26, 2005-03-30

英語圏の法哲学やイギリスの憲法理論においては一般に,「法の支配」の多義性・論争性が強調されるので,「法の支配」を「善き法の支配rule of good law」と混交する考え方は消極的に評価される.他方,日本の司法制度改革を理論的に主導した佐藤幸治の議論の特徴は,「法の支配」それ自体が本来的に「善きもの」であるかのように語る点にある.この語り口を可能にするのが,「法の支配」と「法治主義」の法秩序形成観における差異を強調し,前者の優位を論ずる佐藤の独特な「法の支配」論である.本稿は,戦後公法学の論争上に佐藤の「法の支配」論を位置づけた上で,現代イギリス憲法学の理論動向を参考にしながら,佐藤の憲法学説を批判的に検討する.そして,佐藤の議論のように,政治道徳哲学への越境を禁欲し,法理論の枠内で「法の支配」を厳密に概念構成する学説が孕む問題性を明らかにする.
著者
宇野 重規
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3/4, pp.153-172, 2011-03-15

本稿は「労働」と「格差」について, 政治哲学の立場からアプローチする. 現代社会において, 労働は生産力のみならず社会的なきずなをもたらし, さらに人々に自己実現の機会を与えている. 対するに格差は, 社会の構成員の間に不平等感や不公正感を生み出すことで, 社会の分断をもたらす危険性をもつ. このように労働と格差は, 正負の意味で政治哲学の重要なテーマであるが, これまでの政治哲学は必ずしも積極的に向き合ってこなかった. その理由を政治思想の歴史に探ると同時に, 現代において労働と格差の問題を積極的に論じている三人の政治哲学者の議論を比較する. この場合, メーダが, 政治哲学と経済学的思考を峻別するのに対し, ロールズは, ある程度, 経済学的思考も取り入れつつ, 独自の政治哲学を構想する. また, 現代社会が大きく労働に依存している現状に対しメーダが批判的であるのと比べ, ネグリのように, あくまで労働の場を通じて社会の変革を目指す政治哲学もある. 三者の比較の上に, 新たな労働と格差の政治哲学を展望する.
著者
宇野 重規
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3/4, pp.21-37, 2008-03-14

戦前はジャーナリスト,戦後直後は労働運動指導者として知られた鈴木東民(1895-1979)は,1955年以降,3期12年にわたって釜石市長をつとめた.本稿は,釜石市長としての鈴木東民の仕事を,歴史的な視点から再評価することを課題としている.鈴木東民市政の力点は,道路や学校など地域社会の基盤整備と,広報等を通じての,市民間の交流と対話の空間の創出にあった.本稿ではこれらの政策を,<地域に根ざした福祉政治>,および<開かれた土着主義>として分析する.本稿の最終目的は,釜石市にとってだけでなく,およそ近代日本史における鈴木東民とその市政の意義を再評価することにある.
著者
佐藤 俊樹
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.157-181, 2006-03-28

靖国神社(およびその前身の東京招魂社)は,長く「国家神道」の中心施設だと見なされてきた.しかし実際には,第二次大戦以前でも,その宗教的な性格や政治的な位置づけはかなり変化しており,特に1900年代の前と後では大きくことなる.ほとんどの靖国神社論は政治的立場のいかんを問わず,この点を無視されている.それらが1911年に出た『靖国神社誌』の靖国神社像を踏襲しているからである.本論では,『武江年表続編』や東京ガイドブックといった同時代史科をつかって,1900年代以前の靖国神社(東京招魂社)がどんな宗教的・政治的な意味をおびていたかを,政治家でも宗教家でもない,東京のふつうの生活者の視線から描きだす.それによって,戦前前半期の日本における宗教-政治の独特な様相の一端を明らかにする.
著者
阿部 彩
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.13-30, 2014-05-08

特集 福井県における生活保障のガバナンス本稿は、福井県における大規模アンケート調査のデータを用いて、社会的交流(家族を含む他者とのコミュニケーションや付き合い)、社会的サポート(情緒的および手段的サポート)、社会的参加(地域活動やボランティア活動など)の3つの次元における社会的孤立について分析を行ったものである。そして、年齢や性別、家族構成、結婚状況、就労形態、離職経験、学歴をコントロールした上で、福井県への移住者と福井県生まれの人に社会的孤立となる確率に違いがあるかを分析したその結果、社会的交流においては、女性において、福井県生まれの人に比べて、福井県に移住してから20年未満の人、および30年以上の人は、高い確率で孤立状況となることがわかった。この関係は、男性においては見られなかった。社会的サポートについては、福井県生まれとそうでない人の間に有意な差はなかった。しかし、社会的参加については、男性のみにおいて福井県に移住してから20年未満の人は約2.5倍から2倍の確率で孤立するリスクが高かった。This paper analyzes three types of social isolation (1. Communication, 2. Social support, 3. Participation) using a large-scale micro-data of Fukui Prefecture in Japan. The results indicate that divorcees, those living alone and migrants from other prefectures face a significantly higher risk of social isolation even after controlling for age, gender, socio-economic status, and household structure. The migrant women face higher risk for lacking communication with others, while migrant men face higher risk of lack of social participation compared to natives of the Fukui Prefecture. The analysis shows that there are different risk factors for different types of social isolation and that moving from other prefecture, even after many years of residence, still pose risk of social isolation.
著者
岡野 八代
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.161-182, 2007-02-20

本稿では, 「希望格差」社会の弊害が危惧される現代の日本社会における「希望」の在処を考えるために, 西洋の政治思想史の知見を援用する.第1章では, リベラリズムの歴史を「希望の党派」と「記憶の党派」という二つの系譜の中で読み返し, 「記憶の党派」の中に民主的な変革の可能性を見いだしたジュディス・シュクラーの議論を参照する.彼女の議論を詳しく紹介することによって, 希望は明るい未来にこそ宿り, 記憶は過去に関わるといった単純な議論を批判する.第2章, 第3章では, 上述のシュクラーの思想にも多大な影響を与えたハンナ・アーレントの政治思想を再読することによって, 現代の危機の在処を明らかにしたうえで, 過去の「想起」と物語る能力のなかに, その危機を克服する契機が宿っていることを明らかにする.第4章では, 筆者が実際に出会った日本軍従軍<慰安婦>にされた女性たちの証言について考察することによって, アーレントの物語論の現代的意味を「証言の政治」という観点から考える.そして, 未来を展望するための希望の力は, 現在において閉ざされている過去を新たに拓き, そのことによって現在を変革することから生まれてくることを指摘する.
著者
中里見 博
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.39-69, 2007-02-20
被引用文献数
3

女性の性売買は, 深刻な性的不平等であるにもかかわらず, 今日継続されている.売買春は, その内と外の女性に対する暴力の誘発, ジェンダーの再生産, ジェンダー化されたセクシュアリティの構築という実質的な意味で性差別の制度的実践にほかならない, 売買春を「性的サービス労働」の売買とみなす「性=労働」論は, 売買春の現場で行なわれている性的使用=虐待を「サービス労働」と称して正統化するものである, 性差別・性暴力と対抗してきた性的自己決定権という人権は, 売買春に適用されて変質した.それは売買春を雇用労働とすることを否定するが, 自営業の売買春を否定できず, 合法化する働きをなしうる.しかも自営売春業の合法化は売買春による差別・被害を全社会規模で拡大することになる.元来性的自己決定権と一体であったにもかかわらず矮小化され喪失された性的人格権を復位させる必要がある.そうすることで買春行為は, 金銭で性的人格権を買い取る違法な行為と評価することができ, 例えばスウェーデンでは実現している買春者処罰法のような売買春禁止法への展望が拓けるであろう.
著者
高橋 陽子 玄田 有史
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.29-49, 2004-01-31

20万人に達する高校中退者および中学卒非進学者の労働市場には,高校卒以上に就業環境の悪化が予想されるものの,その実像は明らかでない.本稿では35歳以下の無業者に関する調査を用いて実証分析し,高校中退者は卒業者に比べて,明らかに学校をやめた直後に正社員となる確率が低いことを確認した.ただしそれと同時に,中退だから正社員になりにくいという傾向は,年齢を経るに従って解消されていくこともわかった.さらに中退者は学校をやめた直後に正社員となりにくいが,正社員となった後の就業継続でみれば,高校や中学の卒業者との違いは存在しないことも発見された.中退者が正社員としての就業が困難なのも,継続志向の弱さや認知能力といった資質のせいではなく,高卒以上に本人能力や志向に適った就業機会に出会いにくいことの結果である.
著者
宇野 重規
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.153-172, 2011

本稿は「労働」と「格差」について, 政治哲学の立場からアプローチする. 現代社会において, 労働は生産力のみならず社会的なきずなをもたらし, さらに人々に自己実現の機会を与えている. 対するに格差は, 社会の構成員の間に不平等感や不公正感を生み出すことで, 社会の分断をもたらす危険性をもつ. このように労働と格差は, 正負の意味で政治哲学の重要なテーマであるが, これまでの政治哲学は必ずしも積極的に向き合ってこなかった. その理由を政治思想の歴史に探ると同時に, 現代において労働と格差の問題を積極的に論じている三人の政治哲学者の議論を比較する. この場合, メーダが, 政治哲学と経済学的思考を峻別するのに対し, ロールズは, ある程度, 経済学的思考も取り入れつつ, 独自の政治哲学を構想する. また, 現代社会が大きく労働に依存している現状に対しメーダが批判的であるのと比べ, ネグリのように, あくまで労働の場を通じて社会の変革を目指す政治哲学もある. 三者の比較の上に, 新たな労働と格差の政治哲学を展望する.This article focuses on the problem of labor and inequality from the perspective of political philosophy. In contemporary society, labor is important not only as a source of productivity, but also as a social relationship and an opportunity for self-realization. On the other hand, inequality divides the society by aggravating the sense unfairness among its members. This shows the importance of the theme of labor and inequality for political philosophy, but these two themes haven't been fully discussed by political philosophers. The article analyses the reason of their reluctance in the history of political thought. And by comparing three contemporary political philosophers, Dominique Méda, John Rawls and Antonio Negri, it considers the future possibility of political philosophy for the problem of labor and inequality.
著者
鶴 光太郎
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.99-123, 2011

所得格差拡大の要因については, 高齢化の進展, 単身世帯の増加など世帯の「見かけ」の動きを強調する議論もあるが, 若年層での格差拡大は目立ってきており, 非正規雇用, 特に有期雇用の拡大と関連している. 有期雇用労働者が直面する格差には賃金, 教育訓練などの「処遇の格差」, 「雇用安定の格差」, 「セイフティネットの格差」があるが, こうした格差の縮小のためには, 契約終了手当・金銭解決導入等の雇用不安定への補償や「期間比例の原則」への配慮によって, 雇用安定と処遇の格差の一体的な解決を目指すべきである. また, 有期雇用, 無期雇用, 両サイドで多様な雇用形態を創出し, 連続的に繋がるような仕組みを構築することが重要だ. さらに, 格差問題への政府の積極的な関与も期待されているが, 「必要な人に必要なサポート」を原則に, 最低賃金の引上げなどよりも低所得者の・社会保険料等の負担軽減を目的とした給付付き税額控除で対応するべきである.Widening income inequality over the past decades is related to the growing use of temporary employment as well as an increase of aging and single-person households. Seniority based wage and introduction of termination payment would be effective to reduce the wage gap and compensate employment instability for temporary workers. In addition, more varieties of contract within temporary and regular employment are likely to fill the institutional gap between regular and temporary workers. Government has an important role to mitigate the problems of inequality, but its policies should be based on the principle of "necessary support for people who need most". In this sense, an appropriate policy measure for low income persons is not an increase in minimum wage but the introduction of earned income tax credit (EITC).
著者
廣瀬 陽子
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.131-165, 2004-03-19

旧ソ連のコーカサス地方に位置するアゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフ自治州は,ペレストロイカ期にアルメニアヘの移管運動を開始し,やがてそれは平和的運動から,民族虐殺,民族浄化へと発展し,ソ連の内戦となった.ソ連およびアゼルバイジャン,アルメニアの各共産党は求心力を喪失し,権力が乱立したことから,紛争の収拾がなされないままにソ連は崩壊し,紛争は国際化し,戦争の規模が拡大した.以後,OSCEなど国際的主体が和平に乗り出し,結局,ロシアの主導により停戦に至ったものの,ナゴルノ・カラバフ軍がアゼルバイジャンの国土の20%を占領し続けており,「凍結した紛争」もしくは「戦争でも平和でもない状態」のままで和平プロセスは停滞している.バルト三国以外の旧ソ連ではロシアの影響力が依然として強く,また非民主的な政治体制が継続していることから,国際組織などによる予防外交なども機能しにくい.ロシアの位置は冷戦前後であまり変わっておらず,今後の当地の和平の鍵もロシアが握っているといえる.
著者
小林 友彦
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.81-106, 2003-03-31

「国際法と国内法の関係」に関する学説の長期的な展開過程を追跡し,その蓄積と今日的意義を明らかにする.なお,国別・法系別に論じる必要がありうることに配慮し,特に国際法と日本法の関係に焦点を当てる.I.では,実行を概観する.一貫性を維持しつつ現代的法現象にも対応するために,基礎概念の再検討が必要となることが確認される.II.では,いくつかの基礎概念に関する日本の学説展開の軌跡と蓄積とを跡付ける.その結果, (1)体系間関係, (2)国内的効力, (3)国内的序列, (4)直接適用可能性に関する理論の発展には連続性があり,それらの総合的に把握し再構成させうることが示される.III.では,包摂的理論枠組みの試論として「部分連結する多重サイクル」モデルを提示する.合わせて,(1)「多元的構成」の再考,(2)国内的効力概念の再定位,(3)国家責任論との関係の再検討,という今後の研究課題を提示する.