著者
梅宮 創造
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学紀要 (ISSN:03899543)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.53-77, 1994-03-15

本稿では、『ヘンリ・エズモンド』をどう読むか、という一点に的が絞られる。この作品は従来、歴史小説、家庭小説、心理小説など名札を付けられて、サッカレイの主要作品の一つに数えられて来た。それならサッカレイにとって歴史とは、家庭とは、また人間心理とは何か。この問題はどこかで押えておかねばならない。しかし論点が抽象に流れないように、まずサッカレイの実生活を凝視するところから始めたい。当時のサッカレイが、過去に寄せる関心と現実の日々の生活とをどんなふうに重ねあわせていたか、そのあたりを各種資料のなかに探りたい。とりわけ「ヘンリ・エズモンド」となると、作品制作の上で、あの物議をかもしたブルクフィールド夫人の一件がひときわ大きい。ここに家庭の歪みやら女性心理の屈折やらが透けて見えるのは論を俟たない。もちろん、作品の読み方は各自各様であって然るべきだが、それとは別に、読みの深浅という事実は厳然として残る。その点を疎かに考えるわけにはいかない。本稿の狙いとしては、作品の周辺事から攻めて作品の中枢部に迫る、ということになろうか。叙述のそこかしこに挿んだ指摘や引用は、一つにまとまって論を成すというよりも、それぞれが即ち作品の「読み」のあらわれと云えよう。

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