- 著者
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川平 ひとし
- 出版者
- 跡見学園女子大学
- 雑誌
- 跡見学園女子大学紀要 (ISSN:03899543)
- 巻号頁・発行日
- no.33, pp.43-57, 2000-03
鎌倉末期を目処として成立したと考えられる歌論書 (あるいは歌学書) である『和歌淵底秘抄』(「和歌淵底抄」とも) の、奥書中に見える「定家卿懐中書相傳次第」という語句、ことに「定家卿懐中書」という名辞に着目する。当該の書は藤原定家その人の著作とは認められない。しかし、右の名辞が伝えているのは、同書は定家に関わる書に他ならないことを示唆しさらに当の書を授受・継承してきたという事実を証示しようとする主体の意志の現れである。本稿では、この名辞に含まれている意味と意義を解きほぐすことによって、テキストを制作し、さらに制作された当のテキストを受容し取り扱う中世の人々の<テキスト意識>や、定家に仮託されたテキストの生成と展開の問題との結びつきを検討する。そこから仮託書類のテキストに働く力としての<テキスト幻想>を抽出して、その再措定と命題化を試みる。定家仮託書を追究するための一観点を設定してみたい。