- 著者
-
多々良 美春
Hamacher Andreas
白井 彦衛
- 出版者
- 千葉大学園芸学部
- 雑誌
- 千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
- 巻号頁・発行日
- no.52, pp.43-51, 1998-03
浄土庭園の語義規定に使用される「浄土の雰囲気を表わす」という表現は, 抽象的あるいは主観的であり語義規定としては不適当であると考える.むしろ「仏堂」と「池」の物理的な位置関係あるいは庭園意匠の特徴による規定が望ましい.本論では他の浄土庭園の事例に比べて「仏堂と園池の視覚的な一体性」が希薄であると思われた円成寺と浄瑠璃寺を対称に, 「仏堂」と「池」の位置関係を明確にするための基礎的な考察として, 園池が造営された時点の空間構成を明らかにしようとした.円成寺では仏堂と園池の地盤高に落差があり, 中間には楼門が建てられている.また楼門下と園池の境界部は早くから主要導線であった可能性が高い.このような円成寺の空間構成の成立は, 伽藍の発展経緯に求められることを示した.さらにこの考察の過程で, 円成寺の南北の橋については創建当時にはなかったか, あるいは仮設であった可能性のあることを指摘した.一方で仏堂と園池の視覚的な一体性は, 地盤の高低差あるいは楼門の存在によって阻害されていると予想されたが, 南岸からの視点が考慮されている可能性も否定されなかった.浄瑠璃寺では仏堂と池の配置バランスに偏りが見られる.この空間構成上の特徴を他の浄土庭園との比較によって示した.そして現在の園池が, 九体阿弥陀堂とは別の阿弥陀堂である「西堂」に対して造られたものであって, 九体阿弥陀堂に対してその調和を考慮して計画的に造営されたものではないという見解を示した.また「西堂」を想定した場合には仏堂と池の配置バランスが適当になると推測した.