著者
板垣 雄三
出版者
日本中東学会
雑誌
日本中東学会年報 (ISSN:09137858)
巻号頁・発行日
no.16, pp.1-26, 2001-03-31

筆者は,長年にわたり,中東の地域的特質を明らかにするための研究を行ってきた。その過程で,筆者がいだいた着想と見解について検討・調査をかさね,その確かさをしだいに確信するようになった。それは,中東人にとってのアイデンティティー複合という注目すべき現象こそ,その地域の社会・文化を全体的に把握するためのキーワードであり,錯綜する現実を解明する糸口だということであった。研究作業の過程において,知見・発見の成果の輪郭を説明する目的で,多数の図が作成された。本稿は,それらの図のうちより選び出したいくつかを,中東の政治文化ならびに中東に対する文明戦略を考察することへと導く教育のために教材として活用することを提案しようとするものである。この図解による教育スキームの検討と解説の作業を通じて,以下の結論が導きだされた。すなわち,中東研究の専門家は世界研究(グローバル・スタディーズ)の一般に通暁しなければならず,また世界研究のジェネラリストは中東に関する十分な知識を要求される,ということである。すべての学生に中東の視点から世界を理解する基礎訓練を施すことには,特別の意義が認められなければならない。またその場合,中東問題そのものの性質のために,多専門的アプローチへの志向が重要な意味をもつのである。図解教材においてとりあげられる問題は,以下のとおりである。01 19世紀のオリエント概念 02「冷戦」下の中東概念 03 中東と中央アジアの連結の新段階 04 地域としての中東を超えた中東問題 05 ポスト冷戦期の世界=「世界の中東化」06 十字軍 07 東方問題 08 西欧の発明としての「二つの世界」論と「モザイク社会」論 09〜14 パレスチナ問題 15 ヨーロッパ中心主義の鋳造 16 中東における「族」的結合の可変的形態 17 中東の宗教・宗派一覧 18 n回繰り返された神の啓示 19 アイデンティティー複合の三つのパターン 20 個人の内面のイメージ 21〜25 n地域 26 社会契約局面1 27 社会契約局面2 28 ジハード 29 イスラーム経済論における経済活動 30 市民社会の推進力 31 世界史における近代化過程 32 B.ルイスが示唆する理解モデル 33〜36 イスラーム文明のネットワーク化過程のもとでの近代化 37 ユーラシアの諸文明 38〜39 文明戦略マップ

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こんな論文どうですか? 中東におけるアイデンティティー複合のダイナミックス : 図解教材を用いる授業計画,2001 http://ci.nii.ac.jp/naid/110004854310

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