- 著者
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柳橋 博之
- 出版者
- 日本中東学会
- 雑誌
- 日本中東学会年報 (ISSN:09137858)
- 巻号頁・発行日
- no.19, pp.27-43, 2003-09-30
後世のハナフィー派はタウリヤを、「信頼売買」の一つとして定義している。同派は、タウリヤにおいては、売主が目的物の取得に要した原価を表示し、それと同額で転売することから、これを商取引に疎い買主を保護することを目的とする売買と解したのである。しかしイスラーム法形成期の8世紀の少なくとも初頭においては、タウリヤが締結される場合、買主が目的物を転売することによって得られる転売益について売主が一定の取り分を留保することが予定されており、従ってタウリヤは一種の組合契約であった。しかし、タウリヤは形式上は売買であって、所有権を移転する機能を有することから、その締結後、ないしは少なくとも目的物の引渡しが完了した後には、その滅失・毀損について売主は危険を負担しなかった。しかし、「危険を負担しない物から利益を得てはならない」という原則が8世紀前半に導入されることによって、このいわば原タウリヤ売買は非合法化され、それに代わるものとして、イシュラークが導入された。