- 著者
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大藤 弘明
赤井 純治
- 出版者
- 地学団体研究会
- 雑誌
- 地球科學 (ISSN:03666611)
- 巻号頁・発行日
- vol.59, no.2, pp.103-110, 2005-03-25
20面体構造をとる物質は自然界において極めて稀である.また,並進対称を満たさない5回対称軸を伴うため,鉱物(単結晶)においても原則的に禁じられた構造である.しかし近年,堆積岩中などに広く産するフランボイダルパイライト(黄鉄鉱の木苺状集合体)中から20面体の対称を示すドメイン構造が見出された.本論では,その特異な構造について概説するとともに,天然・合成物質における類似構造体との比較検討を行った.フランボイダルパイライトにおける20面体構造は,中心で頂点を共有して集合した20個の四面体ユニットより構成される.各ユニット内において,マイクロクリスタルは互いの結晶方位を共有し,立方パッキングを形成している.このような多粒子の緻密な集合によって造られる20面体構造は,天然においても他に例がなく,ミクロスケールにおける鉱物の結晶化の新たな一面を示しているといえる.一方,実験合成物,特にクラスターなどのナノスケールの物質においては,20面体パッキング構造は比較的普通に認められる.特に,構成粒子のサイズ,属性こそ大きく異なるが,Au微粒子などに代表される多重双晶粒子と20面体型フランボイダルパイライトとの間に,構造的な共通点が多く認められた.この事実は,ナノスケールからミクロスケール,さらにはマクロスケールに至るまでの微粒子の一連の挙動,クラスターの形成から粒子の成長,結晶相への転移など,を理解する上でも重要な手がかりとなる可能性がある.