著者
舩山 隆
出版者
東京芸術大学
雑誌
東京藝術大学音楽学部紀要 (ISSN:09148787)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.47-63, 2002

本稿の執筆の直接的な契機になったのは、武満徹の死後、筆者のこの作曲家に関連した二つの仕事からである。一つは、パリ日本文化会館で開かれた音楽祭「武満徹-響きの海へ」(1997年10月1日〜10月14日)の企画構成、もう一つは、『武満徹著作集』全5巻(新潮社、2000年7月)の共同編集の仕事である。本稿は、前者の音楽祭での武満に関するレクチャーの原稿を全面的に加筆訂正したものである。本稿は、以下の4節、1)武満の歩んだ道、2)「響きの海」の思想、3)武満の歌、4)ワーク・イン・プログレスから成っている。武満は、矛盾に満ちた作曲家であり、初期の習作期から晩年に至るまで激しい様式転換を繰り返し、無調時代の作品と不確定性の思想と晩年の豊かな旋律を持つ調性音楽は、互いに相容れない性格を持っている。さらに、そのおびただしい数の「言葉の杖」と称した文章にも撞着が散見される。しかし本稿では、作曲家自身の言説を厳密に再検討し、作品の意味を再考するために、「響きの海」「歌」「ワーク・イン・プログレス」などの一定の詩学的・美学的視点を定め、この作曲家の音楽思想と音楽作品の本質を明らかにしようとした。武満の出世作は1957年の≪弦楽のためのレクイエム≫であるが、そこで提出される「音の河」という思想は、それ以前に執筆されたエッセイに見られる「沈黙」や「歌」や「アメーバー」を発展させたものである。そしてそれは1960年代のミュージック・コンクレートの≪水の曲≫に続き、さらに1970年の≪ウオーター・ウェイズ≫をはじめとする、一連の「水の風景」の音楽に引き継がれていく。そして同じ音楽思想が、ジェームズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』三部作、つまり1980年代の、ヴァイオリンとオーケストラのための≪遠い呼び声の彼方へ!≫、弦楽四重奏のための≪ア・ウェイ・ア・ローン≫、ピアノとオーケストラのための≪リヴァラン≫で、豊かな河と水のイメージの「響きの海」を作り出す。武満は音楽を個別的で閉ざされた固定した「作品」としてではなく、音楽を絶えず相対的で動的な「状態」、すなわち「ワーク・イン・プログレス」として捉え、完結と未完結のあいだを往復していたのである。武満と同時代の音楽、絵画、文学等との関連についても、このような視点から言及した。

言及状況

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舩山隆氏にしてインターネットで公開してるのはこの程度か。危機感を持つなぁ。

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