- 著者
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関根 一郎
- 出版者
- 長崎大学
- 雑誌
- 長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
- 巻号頁・発行日
- vol.81, pp.185-186, 2006-09
原子爆弾が広島・長崎両市に投下されて60年が経過した。原爆の医学的被害の研究は疫学的解析を主体になされ,様々な放射線被曝後障害の実態が明らかとなってきた。その中で特に重要なものは悪性腫瘍の増加で,白血病が被爆後約10年で発症のピークに達しその後漸減したのに対し,被爆者固形がんは,現在においてもその罹患率の増加が継続している。最近,我々は長崎腫瘍組織登録委員会の資料を基にした疫学的解析により,被爆後30年を経過し1980年代より近距離被爆者に重複がん罹患率が高くなり現在も増加傾向にあることを見出した。被爆者に数十年という長期間にわたり固形がんの罹患率が高い理由はいまだわっかていないが,放射線によりゲノム不安定性といった易腫瘍発生性が惹起されていて,一般的発がん因子の蓄積するがん年齢となって腫瘍が顕在化するのではないかと推論できる。将来的に発生メカニズムの分子レベルでの解明が待たれるが,そのために被爆者生体試料の収集は必須の作業である。