著者
柴田 尚武 森 和夫 関根 一郎 須山 弘文
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1089-1094, 1988-11-01

抄録 22歳女性,1年前まで覚醒剤を常用していた。1年ぶりにメタンフェタミン(MAP)を静注後昏睡となり,くも膜下出血で死亡した。脳血管造影で右脳梁周動脈にextravasationを認め,血中に374μg/100gのMAPを検出した。剖検にて脳主幹動脈に中膜平滑筋壊死を主体とする病変が広範に観察され,程度は前大脳>中大脳>椎骨>後大脳>脳底動脈の順に強かった。中膜壊死部には炎症細胞浸潤や滲出物を認めず,ごく早期の病変と考えられた。その他,線維性内膜肥厚や中膜石灰化も存在した。MAPポリクロナール抗体を用いた免疫組織学的検索では,中膜の壊死周辺部で染色された。以上より,MAP中毒に頭蓋内出血を合併する成因としては,まず,脳主幹動脈中膜の急性壊死をおこして血管の脆弱化をきたし,さらにカテコールアミン遊離作用による急激な血圧上昇が加わって破裂をおこし,出血すると考えられる。
著者
関根 一郎 岸部 幹 高原 幹 片田 彰博 林 達哉 原渕 保明
出版者
日本鼻科学会
雑誌
日本鼻科学会会誌 (ISSN:09109153)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.169-174, 2021 (Released:2021-07-20)
参考文献数
21

神経内分泌細胞癌(neuroendocrine carcinoma; NEC)は頭頸部では比較的稀である。また,遠隔転移しやすい腫瘍としても知られている。2003年から2020年までに当科で経験した鼻・副鼻腔に発生した神経内分泌細胞癌について検討した。症例は7例で,男性4例,女性3例であり,年齢中央値は60歳(45歳~79歳)であった。原発部位は上顎洞3例,篩骨洞2例,蝶形骨洞1例,鼻腔1例であった。治療は化学放射線療法が中心で,手術治療が行われたのは2例のみであった。7例中1例は1次治療が奏功せず原病死となった。他の6例は全例で1次治療が奏功した。1次治療が奏功した6例のうち,2例が5年無病生存となったが,3例が遠隔転移をきたし原病死し,1例は他病死となった。鼻・副鼻腔原発のNECは手術や化学放射線療法による局所制御は比較的良好であるが,遠隔転移をきたす症例が多く,遠隔転移の制御が予後に関与すると考えられた。
著者
原口 増穂 牧山 和也 千住 雅博 船津 史郎 長部 雅之 田中 俊郎 橘川 桂三 井手 孝 小森 宗治 福田 博英 森 理比古 村田 育夫 田中 義人 原 耕平 関根 一郎
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.45-49, 1987 (Released:2009-06-05)
参考文献数
11

高アミラーゼ血症を伴ったクローン病の1例を経験した.症例は27歳の男性で上腹部痛を主訴に受診高アミラーゼ血症がみられたため膵炎として治療したが約3カ月にわたって高アミラーゼ値は持続した.アミラーゼ値の正常化後も腹痛が続くためにさらに精査を進め,小腸造影での縦走潰瘍などの典型的な所見と生検によるサルコイド様肉芽腫の証明によりクローン病の確診を得た.高アミラーゼ血症については,ERP,CT,USにて膵炎を疑わせる膵管あるいは膵実質の器質的変化がみられないこと,高アミラーゼ値の持続期間が長いこと,腹痛とアミラーゼ値の相関が乏しいことなどより膵由来のものではないと考えられた.したがって本症例はクローン病に膵炎が合併したものではなく,高アミラーゼ血症を伴ったことについては他の機序,たとえば腸管アミラーゼの関与などが示唆され,興味ある症例と思われ,文献的考察を加え報告した.
著者
関根 一郎
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.185-186, 2006-09

原子爆弾が広島・長崎両市に投下されて60年が経過した。原爆の医学的被害の研究は疫学的解析を主体になされ,様々な放射線被曝後障害の実態が明らかとなってきた。その中で特に重要なものは悪性腫瘍の増加で,白血病が被爆後約10年で発症のピークに達しその後漸減したのに対し,被爆者固形がんは,現在においてもその罹患率の増加が継続している。最近,我々は長崎腫瘍組織登録委員会の資料を基にした疫学的解析により,被爆後30年を経過し1980年代より近距離被爆者に重複がん罹患率が高くなり現在も増加傾向にあることを見出した。被爆者に数十年という長期間にわたり固形がんの罹患率が高い理由はいまだわっかていないが,放射線によりゲノム不安定性といった易腫瘍発生性が惹起されていて,一般的発がん因子の蓄積するがん年齢となって腫瘍が顕在化するのではないかと推論できる。将来的に発生メカニズムの分子レベルでの解明が待たれるが,そのために被爆者生体試料の収集は必須の作業である。
著者
内田 雄三 野川 辰彦 山下 三千年 橋本 茂廣 藤井 良介 畦倉 薫 橋本 芳徳 石川 喜久 小武 康徳 猪野 睦征 日高 重幸 北里 精司 大江 久圀 柴田 興彦 石井 俊世 下山 孝俊 三浦 敏夫 調 亟治 辻 泰邦 関根 一郎
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.12, no.12, pp.891-900, 1979-12-01
被引用文献数
7

癌浸潤が肉眼的に胃, 十二指腸の両側におよんでいるとみなされた79例について, 臨床的ならびに病理組織学的に検索し, 切除度および術後再発を左右する因子について検討した. 臨床的十二指腸壁に癌浸潤が確認された症例は79例中35例 (44.3%) で, その発生側はほとんどの症例で明らかでないが, 胃癌の十二指腸浸潤と考えるよりは, その進展の態度ならびに臨床的意義から, 胃・十二指腸境界部癌の概念で把握するのが妥当と思われる症例が6例みられた, この概念に該当する症例は肉眼的に Borrmann1, 2, 3型である. 十二指腸壁内先進部は m および sm にあり, リンパ管内蔓延が問題となる. 転移では(8), (12) および (13) 節が第一群リンパ節としての意義を有する.
著者
高村 昇 青柳 潔 関根 一郎
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故からすでに20年余りが経過したが、事故当時小児であった群は現在思春期から成人期へとシフトしてきており、現在この年齢層における甲状腺がんの発生が大きな問題となっている。一方で汚染地域の中で最も甲状腺がんの増加が見られたベラルーシ共和国は、旧ソ連邦時代の経済的混乱から抜け出しつつあるものの、地方ではまだまだ医療インフラの立ち遅れが見られ、その影響は医療・医学教育の分野にも深刻な影響を及ぼしている。本申請では、長崎大学と学術交流協定を締結しているベラルーシ共和国のゴメリ医科大学との共同事業による遠隔医療・教育ネットワークシステムのための準備を行った。具体的には平成17年6月に研究代表者がベラルーシ共和国を訪問し、ゴメリ医科大学の担当者と協議の上、ゴメリ州内における医療機関との調整を行い、ベラルーシ共和国ゴメリ州のホイニキ地区病院における、無線LANを用いたネットワーク構築の準備を開始した。本プロジェクトについては、ベラルーシ共和国日本大使館とも協議して、草の根無償協力でのプロジェクト形成を行うことにした。今後、ホイニキ地区病院とゴメリ医科大学関連病院との遠隔医療システムをモデルとして、他の地区病院とゴメリ医科大学との間にも同様のネットワークを形成し、早期診断、早期治療に役立てる予定である。さらに、遠隔講義システムの構築についても協議を行い、その結果として平成17年に長崎からゴメリ医科大学に対しての遠隔講義を開始することができた。すでに数回にわたって、インターネットを用いた遠隔講義を行い、大きなインパクトを与えることができた。遠隔講義はベラルーシにおいて大きくマスコミにも取り上げられ、研究代表者がゴメリ医科大学の名誉教授を授与されるなど、医学教育の分野における大学間連携の推進に大きく寄与した。