- 著者
-
鈴木 眞理子
- 出版者
- 埼玉県立大学
- 雑誌
- 埼玉県立大学紀要 (ISSN:13458582)
- 巻号頁・発行日
- vol.8, pp.51-61, 2006
ライフコース研究は家族社会学に応用され、親の価値観、親世代の生活状況が子ども世代に与える影響を考察するのに大きく貢献した。本論文は、専門職であるソーシャルワーカーの力量形成のキャリア発展の要素をライフヒストリーの中に見出す研究の一部として、親世代の影響についてソーシャルワーカーを志した娘世代3名のキャリア発達の中に考察した。いずれも父親は職人、自営業、工場労働者で、学歴も義務教育か高卒であるが、本人の成長と並行して父親も家作のある自営業者、工場長、管理職と出世した。父親のキャリアアップと生活向上を可能にしたのは、日本の経済発展であると同時に、両親の真面目さと努力、才覚である。この家庭状況が3名の原動力になっている。また日本の高等教育の発展が、娘世代に親たちの学歴より上の高等教育を可能にした。娘世代は女性の新たな活躍の場として福祉現場を選び、肉体労働をこなし、人間模様を体験した上で、組織のリーダーや管理職としてキャリアアップした。これは日本の福祉時代の到来と施設やサービス事業所の拡充が追い風になっている。同時に3人は国家資格や専門資格の取得と、米国留学、大学院進学、各種研修講師として、質としてもキャリアアップしているが、これを可能にしたのは、本人の強い向上心と独立心である。父親たちの経済的地位の向上を日本経済が後押ししたのと同様に、娘たちの専門職としてのポスト確保、地位向上は福祉サービスの発展、介護事業拡大が可能にした。社会サービスである福祉は経済的発展の上になりたち、個人の世代的キャリア発展も時代の影響が大きいことが証明された。