- 著者
-
植村 清加
- 出版者
- 日本文化人類学会
- 雑誌
- 文化人類学 (ISSN:13490648)
- 巻号頁・発行日
- vol.69, no.2, pp.271-291, 2004
本論文はフランス、パリ地域に住むマグレブ系移民第二世代が語る<つながり>のかたちを検討することから共同体を再考する。個人を基礎とする「市民たちの社会的つながり」に価値をおくフランス社会において、マグレブ系の人々はその「民族的共同体」や「共同体的属性」が可視化され周辺化された状況にある。その周辺化された「共同体」を自身の生活空間および社会関係の一部とする第二世代の人々は、親たちと自分を差異化し、「出身共同体の文化」から身を引き離してフランスの市民像にうまく合致する自己表象を行うが、その語りからは具体的な生活空間における対面的な関係をさす共同体への言及がみられる。本論文では、そうした彼らの語りと空間実践を、マルク・オジェが提示した「非-場所/場所」の概念、およびミシェル・ド・セルトーが提示した実践される場所としての「空間」概念にヒントを得て検討していく。こうした空間概念を用いることの主眼は、彼らの生活空間を形作ってもいる匿名的な「非-場所」としての都市において対面的な関係がもたれる「空間」に注目するためであり、そうした視点から<つながり>を分析することにある。彼らの語る「私たちの共同体」および「私は私たちの共同体からでている」という語りと空間実践の分析を通して本論文が提示するのは、彼らがローカル化された意味をもつ生活空間における対面的な交換や異なる意味の関係の重ねあいを通して<つながり>を語るとともに、そうした<つながり>を、意味づけの異なる関係と空間へと分割しながら共同体を維持しているということである。本論文は、「公私の区別」という空間概念を導入して提示されるフランス市民像における「個人」と「共同体」のあり方と並存して、そうした区分を横断する形で「個人主義的」であると同時に多民族的で、差異を含みもつ<つながり>としての共同体が生きられていることを、こうした彼らの実践から明らかにする。