著者
広瀬 浩二郎
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.379-398, 2005

本論文においては「介護」を障害者と健常者の関係と定義し、「介護の人類学」構築の可能性を探る。具体的には戦後60年間の視覚障害者と日本社会の関わりに注目し、「介護」概念の変遷を追う。「平家物語」の創造、伝播に象徴されるように、日本の宗教・芸能史のなかで盲人たちは大きな役割を果たしてきた。江戸時代以後、彼らは主に按摩・鍼・灸、あるいは筝曲を生業とした。近代の盲教育にあっても、中世の当道(琵琶法師の座)以来の伝統的職業を死守していくことが最大の目標とされた。「決められた道」を持つことが他の障害者には見られない視覚障害者の特徴であり、その「決められた道」からの脱却が第二次大戦後の盲青年たちの"見果てぬ夢"となった。"見果てぬ夢"は視覚障害者の高等(大学)教育への進出という形で発現した。本論文では、1950〜60年代を「大学の門戸開放」期、70〜80年代を「入学後の学習環境の整備」期、90年代以降を「卒業後の就労支援」期と位置付け、各時期の「介護」状況を示す団体として「日本盲人福祉研究会(文月会)」「関西SL(スチューデント・ライブラリー)」「視覚障害者文化を育てる会(4しょく会)」の活動を取り上げる。障害者=「特殊」、健常者=「普通」という図式は、少数者を差別、排除する近代化過程の必然の帰結だった。視覚障害者は「奮闘」「懇願」することから"見果てぬ夢"の実現をめざし、彼らの社会参加を求める運動は晴眼者の「同情」により受け入れられていった。70年代以後には「権利」を主張する障害者とそれを「支援」する健常者により、「特殊」を「普通」に変換する「バリアフリー」が進展した。本論文では「バリアフリー」の次なる課題、21世紀の「介護」を創出する新しい概念として「フリーバリア」を提唱したい。

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