- 著者
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橋本 行洋
- 出版者
- 日本語学会
- 雑誌
- 日本語の研究 (ISSN:13495119)
- 巻号頁・発行日
- vol.2, no.4, pp.92-107, 2006
本稿は、新語の成立および定着・普及の経緯を「食感」という語を通して観察するとともに、その要因について考察したものである。「食感」は近年広く用いられるようになった新語であるが、この語は教科書や公的文書にも使われ、筆者のいうところの《気づかない新語》の一つに数えることができる。この語はもと食品学・調理学研究者の間で、「味・香・触」を総合した〈広義の「食感」〉の意味で用いられたが、食品のテクスチャー研究が本格化した1960年代ころから、現在のような口内の触覚を示す〈狭義の「食感」〉の用法が多く見られるようになった。この〈狭義の「食感」〉発生の背景には、先行する同音の類義語「触感」の存在が関与しているものと考えられる。「食感」が《気づかない新語》となり急速に一般語化した要因としては、この語が漢字表記を本来の形とする漢字語であること、また「味」や「色」に対応する触覚を総合することばの欠を補うものであったことや、「食味」「食育」などの「食-」語彙の一つに位置づけられるといった、《語彙体系のささえ》の存在があげられるだろう。