著者
金子 正徳
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.1-20, 2007

本論文は、インドネシア共和国ランプン州に位置するプビアン人社会の婚姻儀礼の事例を中心として、新秩序体制期とそれ以後数年の間にみられた社会文化動態を分析する。今日のインドネシアでは、婚姻儀礼は二つの側面から解釈される。一つはアダット(慣習/慣習法)の側面、もう一つはクブダヤアン(文化)の側面である。アダットの側面からいえば、婚姻儀礼はそのエスニック集団のアダットに従い、正しく行われねばならない行為である。村落を活動基盤とするアダット知識人がその中心にいる。クブダヤアンの側面からいえば、婚姻儀礼は意味や象徴性という観点から解釈される対象である。都市を活動基盤としているローカルな知識人によって、各エスニック集団のアダットはインドネシア国民文化にとって必要不可欠な地方文化の一部分として解釈される。同じ対象を扱いながらも、アダットとクブダヤアンは異なる知の体系なのである。K村で行われたある婚姻儀礼は、アダット儀礼というだけではなくて、文化イベントとしても位置づけられていた。ここでは、アダット知識人とローカルな知識人が同時に行為者となるという特異な状況がみられた。この婚姻儀礼のクライマックスでは、プビアン人社会外部からやってきた来賓へ儀礼行為の意味や象徴性を説明する役割を負っていたローカルな知識人に対して、儀礼進行の主導権を奪おうとしたアダット知識人が仕掛けた小競り合いがみられた。小競り合い自体は儀礼の出資者によってすぐに収められ、以後は何事もなく進められたが、これはアダットとクブダヤアンの関係を如実に示している。アダットとクブダヤアンは単に並存しているのではなく、両方を一度に選択できない二つの選択肢として、一つの解釈装置を構成している。二つの概念の近接が生みだしたこの解釈装置を介して、現代の地方エリートは地方社会内部での上昇を図っているのである。

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