- 著者
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中村 尚史
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 社會科學研究 (ISSN:03873307)
- 巻号頁・発行日
- vol.58, no.3, pp.13-34, 2007-03-09
本論では, 日露戦後期の電鉄企業による不動産事業の展開過程を, 小林一三がひきいる箕面有馬電気軌道の事例に注目しながら検討した.日本における電鉄企業の不動産事業の特徴は, 線路用地買収と前後して停車場建設予定地付近に広大な土地を取得しておき, 鉄道開業後に宅地造成と住宅建設を行って分譲するという点にある.このビジネス・モデルが成功するためには, (1)住宅用地の買収能力と(2)分譲住宅の販売能力に加えて, (3)広大な未開発地を長期間寝かせておける資金力が必要である.箕面有馬電気軌道は, このうち(1)については沿線地域の有力者を代理人する共有地や民有地の買収で, (2)についてはPR誌等を活用した沿線地域のイメージ・アップ戦略と月賦販売による新中間層への売り込みによって, さらに(3)については電鉄業の社会的信用と株式現物商の機動力を活用した低利の社債募集によって, それぞれ解決することに成功する.こうして同社は, 電鉄企業による不動産経営の開拓者となった.