著者
石井 弓美子 嶋田 正和
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.183-188, 2007
参考文献数
36

生物種間相互作用は生物群集の構造に重要な影響を与える。特に、数の多い餌種をその存在比以上に選択的に捕食するようなスイッチング捕食は、多種の共存を促進する強力なメカニズムとして注目され、多くの理論研究が行われてきた。しかし、その実証研究は遅れている。頻度依存捕食を引き起こすような捕食者の採餌行動についてはすでに多くの研究が行われているが、それらの行動が個体数動態、さらに群集構造に与える影響についての実証研究は多くない。理論研究によれば、ジェネラリストである共通の捕食者によるスイッチング捕食は、被食者間の共存を促進することが示されている。本稿では、多種の共存促進メカニズムとしてのスイッチング捕食について、理論と実証のそれぞれの研究について紹介する。また、著者らが行った2種のマメゾウムシ(アズキゾウムシCallosobruchus chinensis, ヨツモンマメゾウムシC. maculatus)と、その共通の捕食寄生者である寄生蜂1種(ゾウムシコガネコバチAnisopteromalus calandrae)からなる3者系実験個体群では、寄生蜂によるスイッチング捕食が2種マメゾウムシの長期共存を促進するという結果を得た。寄生蜂を入れずにマメゾウムシ2種のみを導入した系では競争排除により必ずアズキゾウムシが消滅したが、そこに寄生蜂を導入したときには3者が長期間共存し、さらに2種マメゾウムシの個体数が交互に増加・減少を繰り返すような「優占種交替の振動」が見られた。そこで、寄生蜂の2種マメゾウムシに対する寄主選好性を調べると、数日間の産卵経験によって寄主選好性が変化した。産卵した経験のある寄主に対して選好性を持つため、寄生蜂は、頻度の多い寄主に選好性をシフトさせ、頻度依存捕食をしていることが分かった。この結果はスイッチング捕食が被食者の共存持続性を増加させることを示した数少ない実証例である。

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