- 著者
-
大野 加奈子
- 出版者
- 日本文化人類学会
- 雑誌
- 文化人類学 (ISSN:13490648)
- 巻号頁・発行日
- vol.72, no.2, pp.165-187, 2007-09-30
本稿では、日本の伝統文化とされる「書」について、現在見られる日本の書道界のシステムをそこで活動する一般修練者の立場から記述して提示し、茶道やいけ花の家元制度と比較してその特徴を考察する。日本の書は、本来情報伝達手段であり実用的なものであったが、日本の近代化の中で実用的価値が薄れ消滅の危機を迎えた。「芸術」「伝統文化」へその存在価値を求めた書は、義務教育への参入を通して日本人の誰もが書を経験するものとなり、日展をはじめ出品数2万点を越す全国規模の大型展覧会の開催といった活動を通し、現在の日本の書とそれを支える書道界を作り上げた。日本の書道界では、日展を権威のヒエラルヒーの頂点とした、全国規模の大型展覧会での受賞歴により階梯を登るシステムが形成されている。そのシステムを家元制度と称し、西山松之助が『家元制度の展開』で書道界(会)について述べている。書道界(会)のシステムを家元制度との比較から考察し、そこに働く力学を探る。書道界(会)は家元制度的な組織運営形態をとっているが、代々続く家元や継承すべき型は存在せず、書道界で地歩を築き上昇するための方策として家元的制度を採用していること、またそうすることで書道界全体が日本の「伝統文化」の中に位置づけられるのを目指す意図があったことを示す。