- 著者
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三具 淳子
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.58, no.3, pp.305-325, 2007-12-31
- 被引用文献数
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第1子出産は女性の労働者としての地位を大きく変える分岐点である.「妻の就業」は本人の経済的自立の基盤であり,夫婦の平等志向を実現させる重要な要因であるとともに,夫婦の内と外のジェンダー・アレンジメントの結節点でもある.<br>この点をふまえ,本稿は,第1子誕生を間近に控えた夫婦へのインタビューをもとに,出産後の妻の就業継続等の行動を決定する過程を分析した.その際,Komterによる3つの権力概念の適用を試みた.その結果,夫婦の個別的相互関係においては「顕在的権力」の作用は認められず,確認されたのは,マクロなレベルに規定要因をもつ「潜在的権力」と「目に見えない権力」の作用であった.<br>「目に見えない権力」の背景には,ジェンダー・イデオロギーとともに合理主義的判断の優位性がみられ,こうした複合的な規定要因が補強しあって作用するため,妻の多くが不満をもたずに労働市場から「スムーズ」に退出していく態様がとらえられた.<br>これらの分析結果は,Komterの権力概念の再考を迫るものとなった.1つ目は,「潜在的権力」が社会構造的レベルにも規定要因をもつという点,2つ目は,「目に見えない権力」はジェンダー・イデオロギーのみによって規定されているわけではく,複合的な要因を考慮する必要があるという点である.