著者
永木 正和
出版者
帯広畜産大学
雑誌
帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 (ISSN:0470925X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.555-570, 1977-07-25

露地野菜生産者は,作付面積の増大が価格低落をもたらすという事実に熟知していても,自らによっては作付面積を制御できないため,クモの巣サイクルに陥って,価格暴落による損失を余儀なくされていた。一方,消費者もクモの巣サイクルのもたらす価格高騰が家計を不安定にし,露地野菜が必需的食料であるだけにその家計へのシワ寄せも大きかった。本来,この種の問題は,基本的には,生産者の投機的な作付行動の結果としてもたらされたものであり,投機性を排除した生産者の積極的な市場対応によって,自ら作付面積変動を制御して,需給均衡する価格の実現と維持を計らなければならない。しかし,現実には生産者が市場対応をとりうるだけの条件が整備されていないし,それがなしえた場合にも限界があった。そこに,政府等の政策主体が,露地野菜におけるクモの巣価格-供給量変動を断ち切るための積極的な政策対応がとられるべき必然性がある。小稿は,1)そのような安定価格と安定供給を実現するための政策対応として,いかなる種類の政策がとられるべきであるか,2)現行の国の価格補填政策がいかなる問題点を含むか,3)それではいかなる方式の補填政策が採用されるべきであるかについて考察した。要約すれば以下のようである。(1)価格安定化対策としての流通,市場対策としては,価格形成には直接関与せず,価格の空間的,時間的な競争均衡達成が可能な限り容易になしうるように体制整備することである。具体的には,市場,産地情報の収集,分析,公表と,産地が積極的市場対応をなしうる条件としての高生産力専業農家の育成,その集団化による主産地化,および共販体制の整備と計画生産,計画販売の推進にある。(2)現在の国の「野菜価格補填事業」は,それが生産者所得を補償する事後的な対応であるとともに,次年度の価格高騰を防ぐ事前的な対応の双方を狙いとする点で意義がある。しかし,a)全産地,全市場を対象とする補填政策でないために,限界生産者,あるいは弱小産地の切り捨てになる政策になりかれないし,価格変動抑止効果も小さい。b)補填額に限度があり,真の生産者収益の安定を保証するものではなく,しかもクモの巣サイクルを必らずしも収歛方向に指向させるものでない点で不十分である。c)「保証基準価格」は,所得補償と価格高騰抑止のいずれを重視するかによって算定方法が相違するが,現行の補填政策はその狙いが明確でない。(3)現行の補填方式の問題の反省に立って,所得補償と価格暴騰抑止の双方を同時に目標とする補填方式を提示した。それは,2段階的な補填方式をとり,基本的には,需給均衡供給量を超過して収益低下をもたらす場合,それが反収増による収益低下であれば適切な水準で補填し,経営の安定を計る。しかし,作付面積の増加による場合には,需要法則に従って収益が低下し,これによって生産者の自主的制御作用が働く余地を残した。この点で京都府の行っている「粗収益補償方式」と明確に相違する。次に,収量変動を考慮しながら,来期の価格暴騰を防ぐため,ある一定の信頼水準において需要価格が一定以上には上昇しないようにするための補填額の算出方法を示した。以上のような,2段階の補填方式を採用するなら,生産者の直面する需要曲線は2重屈折線として示される。ここに提示した補填方式が採用されることによって本来の価格安定,経営安定,ひいては需要に適合した安定供給が達成されるであろう。

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こんな論文どうですか? 露地野菜の価格安定化と価格補填政策 : 特に現行の「野菜価格補填事業」との関連で(永木 正和),1977 https://t.co/kzxUSdut3Z

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