- 著者
-
山岸 明子
- 出版者
- 順天堂大学
- 雑誌
- 医療看護研究 (ISSN:13498630)
- 巻号頁・発行日
- vol.3, no.1, pp.102-108, 2007-03
本研究の目的は,「生産性」に関して逆方向の発達課題を担っている児童期と老年期にある者が交流をもつことによりもたらされるものについて,発達心理学の観点から考察を行うことである。考察の対象としたのは,偶然交流をもつようになった孤独な老人と寂しさや問題をもつ少年が,交流を通して独特な形で支え合い,老人の死後も少年の心を支え続けるようになる過程を描いた2つの小説,「博士が愛した数式」と「夏の庭」である。なぜそのようなことが可能になったのかの分析を行い,1)老人のもつ能力や特質が少年達の発達課題の取り組みに合っていて,そのサポートができたこと,2)少年たちは他の大人から道具的・情緒的サポートを受けたり,存在を認めてもらうことが少ない少年だったという2つの要因が抽出され,そのことが双方が相手の「役に立っている」という気持や,自分が相手から必要とされ大切にされているという気持をもたらし,Eriksonの相互性が成立したことが示された。老人と少年との間にこのような交流がいつもおこるわけではなく,老人の状況,少年側の状況,交流の中味,それらの条件が整った時のみに,相互性の体験がもたれることが論じられた。