著者
山岸 明子
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.285-294, 2007

The purpose of this study was to reexamine the developmental feature of considering others' feelings and not considering one's duty to a group, based on Yamagishi's article which analyzed the promise concept in contemporary schoolchildren in Tokyo. The investigation was conducted in Nagano prefecture. A questionnaire was used to ask children in second, fourth and sixth grades whether they would keep or break promises in 4 scenarios in which various contextual factors against keeping these promises were included, adding 2 new situations to clarify the developmental feature. The fourth and sixth grade respondents were also asked to state reasons. The results were as follows: 1) the same tendency was found in both new situations and former ones. 2) the same tendency was found in Nagano, as in Tokyo, indicating no regional difference, 3) when stating reasons, there were many who stated concern for other's feeling (especially in fourth grade), and while many fourth graders felt a sense of duty to a group, there were many sixth graders who responded to promise situations flexibly, coordinating both positions. The findings are discussed with reference to Kohlberg's stage 3 and contextual relativism.
著者
山岸 明子
出版者
順天堂大学
雑誌
医療看護研究 (ISSN:13498630)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.8-15, 2005-03-19

発達心理学が明らかにしてきた知見を参照しながら,思春期の心の危機を描いた文学作品-村上春樹氏の「海辺のカフカ」-について分析を行った。まず思春期とはどのような時期であり,思春期危機に関与している要因は何か,また危機を乗り越えるためには何が必要なのかに関する発達心理学の見解について述べ,それらと関連させながら,15才の主人公がどのような問題をかかえ,にもかかわらずなぜ危機を乗り越えることができたのかについて分析した。危機的状況を乗り越えることを可能にした要因として,1)情緒的及び実際的に支えてくれる人との支持的で暖かい関係,2)自分が必要とされている価値ある存在であることの実感と,「母親の過去」の事情を理解し許す気持ちになったこと,3)自立して生活する能力や,自己を内省したりコントロールする力-自我の強さをもっていること,が抽出された。それらは発達心理学が明らかにしてきたこととほぼ対応するものであった。
著者
山岸明子
雑誌
日本教育心理学会第57回総会
巻号頁・発行日
2015-08-07

目 的 Montgomery, L. M. 著「赤毛のアン」(1908)は,孤児として不遇な子ども時代を過ごし,発達心理学的に不利な状況にあったにもかかわらず,賢く愛情豊かな女性に成長する様子を描いた児童文学である。幼少期の愛着形成において問題がある者の回復の過程が描かれていると考えられるが,その成長の過程は,発達心理学の知見と一致しているか,発達心理学の観点から無理はないかを検討することが本研究の目的である。幼少期に孤児となり,誰からも愛されたことがなかったアンは11才の時にクスバート家に来るが,「赤毛のアン」に書かれている記述から,1.それまでのアンの育ち,2.クスバート家に来た当初のアンの様子,3.その後のアンの変化に関して愛着の観点から検討を行う。そしてフィクションの小説ではあるが,幼少期の愛着形成において問題がある者の回復の過程やそこに寄与する要因についても考察する。結果と考察1.アンの育ち アンの語りによれば,生後3ヶ月で母親,次いで父親も熱病で死去(父母は共に高校教師)。親戚もなく引き取り手がいなかったため,近所に住む一家に引き取られる。貧しく酒飲み亭主のいる家庭で,子守り兼小間使いとしてこき使われ,つらい思いをしながら,二軒の家で過ごし(大勢の子の面倒をみるため,学校へもほとんど行けなかった),その後4ヶ月孤児院で暮してから,独身の老兄妹マシューとマリラの家にくる。「誰も私をほしがる人はいなかったのよ。それが私の運命らしいわ」とアンは言っているが,愛着対象をもつことなく,誰からも愛されたことがない少女である(唯一何でも話せる相手は想像上の友人であった)。2.クスバート家に来た当初のアンの様子 愛着対象をもたず,誰からも愛されなかったため,愛着に関する障害があることが予想される。著者は必ずしも否定的なものとして書いていない場合もあるが,グリーン・ゲーブルスに来た頃のアンには行動的・心理的に様々な問題がある。1)感情のコントロールができず 特に怒りのコントロールができない。2)よく知らない人に対するなれなれしい態度がみられる。これはDSM-Ⅳの愛着障害の診断基準の「拡散された愛着」に該当すると思われる。3)大げさな表現-アンのおしゃべりは想像も加わっていて大げさだし,喜び方や謝り方も演技的と言える位大げさである。4)自己評価が極めて低い。強い劣等感をもち 誰にも愛されない,誰からも望まれない,自分は哀れな孤児だと何度も言っている。5)嘘をつく。 そのような問題が見られる一方,他者と関係を持とうとしない,あるいはそれがむずかしいというDSM-Ⅳの愛着障害の診断基準の「回避性」の傾向はもっておらず,他者との関係性は基本的にうまくいっている。対人的な自信がないにもかかわらず,よい関係を作る力をもっていることと,はじめから学業優秀な点は,育ちから導くことはむずかしいと思われる。3.その後のアンの成長 アンは11才まで愛情を受けずしつけも満足に受けていなかったが,優しいマシュウと厳しいが愛情をもって育ててくれるマリラのもとで,安全基地と安全感を得て,また荒れた気持ちを宥め慰めてくれる他者を得て徐々にかんしゃくをおこすこともなく穏やかな少女になっていく。 近隣の人も友人も,孤児であり,かんしゃくもちで変わったところのあるアンを受入れてくれ,学校でもアンはのびのびと個性を発揮して友人との生活を楽しむ。 そして「私は自分のほか,誰にもなりたくないわ」と今の自分を肯定するようになる。強い劣等感をもち,誰にも愛されない,哀れな孤児という自己概念は大きく変わっている。4.アンの変化に寄与したもの アンの変化に寄与した要因として,1)暖かくしっかりとした養育 2)学習の機会と動機づけの提供 3)よい友人関係 4)地域の大人とのかかわりがあげられる。これらは,山岸(2008)の被虐待児の立ち直りについての検討や,レジリエンスの促進要因としてあげられていることと共通しているといえる。 アンが当初からもっていた対人的能力や学業上の能力に関しては,語られた育ち方では少々無理があるが,クスバート家そしてアボンリーで生活する中でのアンの変化に関しては,発達心理学の見解と一致するものであることが示された。
著者
山岸 明子
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医療短期大学紀要 (ISSN:09156933)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.41-50, 2000-03-29

本研究の目的は,内的作業モデル尺度の構造を明らかにするために,対人的関係性(親密性,依存性,援助の拒否)や自己への信頼感(無力感,孤独感,適応感)との関係を検討することと,縦断的データによってそれらの変数の変化を検討することである。被験者は95名の看護短大生で,1年時の4月,6月,3年時の4月,9月の4時点で同一の質問紙調査に答えてもらった。主な結果は次の通り。1.因子分析の結果,アンビバレントは対人的不安と一般的な自信のなさの2つに分かれ,回避は自力志向と情緒的関係の回避の2つに分かれた。それぞれの2要因間の相関は弱く,また対人的関係性や自己への信頼感との相関関係も異なる部分が見られた。これらのことはアンビバレントと回避の尺度は1つの要因ではなく,異なった複数の要因から成っていることを示している。2.時期による得点の違いに関しては,対人的不安とIWMの安定性,親密性が有意だった。対人的不安は学年の進行と共に減少する傾向が見られ,安定性は2ケ月半の病院実習の後で増えていた。4時期間の相関は2年半の間隔の場合も含めて比較的高く,これらの変数に関して大きな変動は少ないことが示された。
著者
山岸 明子
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医療短期大学紀要 (ISSN:09156933)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.44-53, 1992-03-25
被引用文献数
1

学業-職業志向が異なる女子青年においては,性役割に関する自己認知の様相が異なるだろうという仮説のもとに,性役割と関連する特性について看護学生と社会科学専攻の女子大生を比較検討した。その結果次のことが示された。1)理想自己については,看護学生の方が女性性に該当する特性をもちたいとしていた。2)現実の自己に関しては両群間にほとんど差はなかった。しかし3)自己を認知する時の中心的な軸,及び4)自我同一性と性役割特性との関連の仕方において相違が見られた。社会科学系専攻の女子大生においては,外界に積極的能動的にかかわり一人でやっていく力-男性性-をもつかどうかが,自己認知の中心的な枠組みで,個の力をもつ者は全体的に好ましい特性をもつし,「確かな自分」をもつこととの関連も非常に強かった。それに対し看護学生においては,共同性や関係性-女性性-の方が自己認知の枠組みとして重要であり,他者とのかかわりに関する肯定的な特性をもつことが,個の力をもつことと同様に「自分の確かさ」と関連することが示された。
著者
山岸 明子
出版者
順天堂大学
雑誌
医療看護研究 (ISSN:13498630)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.130-135, 2006-03

本稿では,高等養護学校でおこった2人の少年の思いがけない変化を描いた山田洋次監督の映画「学校II」をとりあげ,何が2人の少年を変えたのか,そこに教師の働きかけ・教育はどう関与していたのかを教育心理学の観点から分析し,それに基づいて大人は子供にどのようにかかわったらいいのかについての考察を行った。教師の熱心な働きかけによっても変わらなかった2人の少年が立ち直った要因として,1)教師ではなく仲間からの思いがけない働きかけ 2)少年たちの気持を理解しようとし,共感的にかかわる教師の対応 3)自分にも何かができるということの経験,4)教師による学習や自己統制への指導,が抽出された。以上の分析に基づき,子どもの発達的変化を促すものとして,大人との暖かく支持的な関係,親密な仲間や様々な他者との交流(子どもが他者をケアするような関係も含めて)が重要であり,そこで受容感や自分が有効性をもち必要とされている存在なのだという自己効力感を経験することが子どもを変えることが指摘され,更に子どもの能動性・自発性にもとづく教育だけでなく,時には大人が主導的にやらせて子どもに基本的な力をもたせて,自発的にやろうとした時にできるように準備を整えておくことの必要性が論じられた。
著者
山岸 明子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.163-172, 1998-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
29
被引用文献数
1

本研究の目的はセルマン理論に基づいて対人交渉方略 (INS) の質問紙を作成し, その発達的変化, 及びINSと学校での適応感との関連を, 性差からの観点を中心に検討することである。172名の小学4年生, 273名の6年生, 117名の中学3年生, 67名の大学生に対し質問紙調査が行われ, 対人的葛藤を解決するのに9種類のINSをどの位使うか, また学校での生活についてどう感じているかについて回答を求めた。主な結果は次の通り。1) INSのレベルに関しては, 女子の方が男子より進んでいた。2) 低レベルにおいては, 男子は他者変化志向, 女子は自己変化志向の得点が高かった。3) 男子ではINSレベルと学校での適応感との間に正の相関が見られ, セルマン理論に合致していた。その傾向は特に6年生で顕著だった。4) 女子では小6から中3にかけて, 他者変化志向の減少と自己変化志向の上昇が見られた。またINSレベルと適応感との関連は, 小6では男子と同様な関連が見られたのに対し, 中3では全く異なっていた。
著者
山岸 明子
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂大学スポーツ健康科学研究 (ISSN:13430327)
巻号頁・発行日
no.11, pp.37-48, 2007-03

The purpose of this study was to examine the condition of solidarity in childhood by analyzing typical examples where children either could form solidarity or couldn't. We analyzed two contrasting novels describing boys' solidarity, William Golding's ``Lord of the flies'' and Kenzaburo Oe's ``Nip the buds, shoot the kids''. Results showed that the following six conditions had effects on forming solidarity; as to tasks which boys worked on, 1) cognitive adequacy of tasks, 2) degree of task sharing, 3) clarity of results, 4) degree of necessity for cooperation, and as to boys' endowments, 5) ego maturity of group members, especially their leader, and 6) experience of independence and strength of orientation toward it. It was also considered how adults can support them to form solidarity in difficult conditions.
著者
山岸 明子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.97-106, 1976-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
14
被引用文献数
6 3

The purpose of this study is to investigate moral judgement in children and youth based on the theory and the method of Kohlberg, L., and to examine the availability of his method and the validity of stage sequences in Japan whose culture is different from the U. S. A..In this study, moral judgement was analysed from how children and youth understood various moral norms which were imposed on them by adults or society, and what their standards of right-wrong were.Four of the Kohlberg's stories involving moral dilemmas, translated and slightly modified, were given to 19 5 th-, 20 8 th-, 20 11 th-graders and 16 college students. They were asked to answer in writing what one of the characters of each story should do and why, and later, to respond in an interview to additional clarifying questions. Their responses were analysed in detail by issue scoring method which examined what their basic orientation to moral issues was, and classified into one of 5 stages,(stage 5 and 6 were not distinguished). Two scorers' rating 40 Ss independently were in close agreement.The results were as follows;1) Distributions of stages among the subjects were as shown in TABLE 5. It showed age-dependent development of moral judgement and supported the Kohlberg's theory.2) As to sex differences, such tendency was found. that in girls there were more who had stage 3 orien tation (but not statistically sighificant).3) In Japan there were more who belonged to stage 3 than in U. S. A., overall age except among college students.
著者
山岸 明子
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医療短期大学紀要 (ISSN:09156933)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.48-56, 1990-03-25

本稿は,我々がそれぞれもっている「正しさ」の枠組み-何が正しいこと,よいことなのか-が,どのような経験の中で何によって作られていくのかを考察するものである.コールバーグは「公正さの道徳性」の発達段階論を提唱し,その発達には他者との相互作用の中で自分とは異なった他者の視点をとる経験(役割取得)が重要だとした.それに対しギリガンは,コールバーグの発達理論は男性の発達を描いたものにすぎないと批判し,女性はそれとは異なった「配慮と責任の道徳性」をもち異なった発達過程をたどること,その違いは他者-世界との関係の仕方が男女で異なることに由来すると指摘した.本稿では,日本における道徳判断の発達を実証的に検討した研究と関連させて,二つの道徳性が,我々が経験する二つの基本的な対人関係に基づいて構成されるという仮説が提起される.二つの対人関係とは(1)自他が明確に分化された関係と,(2)自他を明確に分化しないままにかかわる関係であり,それぞれ父親,母親との関係に原型があると考えられる.父親的関係,母親的関係の中でいかに「正しさ」が構成されるのかの考察がなされ,更に日本のしつけ-対・子供関係-の特徴が二つの対人関係との関連で論じられる.
著者
山岸 明子
出版者
順天堂大学
雑誌
医療看護研究 (ISSN:13498630)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.102-108, 2007-03

本研究の目的は,「生産性」に関して逆方向の発達課題を担っている児童期と老年期にある者が交流をもつことによりもたらされるものについて,発達心理学の観点から考察を行うことである。考察の対象としたのは,偶然交流をもつようになった孤独な老人と寂しさや問題をもつ少年が,交流を通して独特な形で支え合い,老人の死後も少年の心を支え続けるようになる過程を描いた2つの小説,「博士が愛した数式」と「夏の庭」である。なぜそのようなことが可能になったのかの分析を行い,1)老人のもつ能力や特質が少年達の発達課題の取り組みに合っていて,そのサポートができたこと,2)少年たちは他の大人から道具的・情緒的サポートを受けたり,存在を認めてもらうことが少ない少年だったという2つの要因が抽出され,そのことが双方が相手の「役に立っている」という気持や,自分が相手から必要とされ大切にされているという気持をもたらし,Eriksonの相互性が成立したことが示された。老人と少年との間にこのような交流がいつもおこるわけではなく,老人の状況,少年側の状況,交流の中味,それらの条件が整った時のみに,相互性の体験がもたれることが論じられた。
著者
山岸 明子
出版者
順天堂大学
雑誌
医療看護研究 (ISSN:13498630)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.95-101, 2008-03

本研究の目的は,劣悪な環境に長期間置かれて育ってきたにもかかわらず,それにめげずに立ち直った青年について,立ち直りを可能にした外的・内的要因を発達心理学の観点から検討することである。実母から苛酷な虐待を長期間受けながら立ち直ったDave Pelzer氏(「"it"と呼ばれた子」の著者)が書いた5冊の著書を用いて,なぜ彼が立ち直れたのか,何がそれを可能にしたのかについて分析を行った。その結果,まわりからのサポートを得られたこと,本人が心理的強さや肯定的な志向等のresilienceをもっていたこと,そしてサポートや状況要因と本人のもつ逆境に耐えうる資質がうまくかみ合って,マイナス要因を補強しプラス方向に導いたことが示された。また自分の経験を振り返り著書にまとめたり講演をする中で,sense of coherenceをもつようになっていった可能性も示された。更に彼がもつ強さの源はどこにあるのかについても検討を行い,生得的なものもあると同時に虐待を受ける前の幼少期の経験が関連していること,Eriksonの第1,第2段階の発達課題をしっかり達成していたことが強さを培い,その後の劣悪な状況をくぐり抜けさせたことが示唆された。