著者
水島 かな江
出版者
日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 = Journal of home economics of Japan (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.69-79, 2008-02-01
参考文献数
75

ホームの訳語としての家庭と,Horticultureの訳語としての園芸は,ともに近代に入って使われるようになった言葉である.この二つの語を含み,その目的を家族の団らんとする「家庭園芸」は,明治期後半に登場した.本稿では,この「家庭園芸」を対象とし,家庭がどのような経緯で園芸との関係を深め,「団らん」をその領域に浸透させていったのかという疑問を解くことを目的として研究を行った.主に用いた資料は,ホームと団らんに関する言説の発祥とされる女学雑誌と明治期に入って出版された園芸書である.その結果,以下のような流れで,家庭と園芸の関係が生じ,園芸領域に団らんが浸透していくことがわかった.1)女学雑誌の中での流れ(1)巌本による「一家の和楽団欒」とホームの登場.(2)「一家の和楽団欒」の担い手=女性という位置づけ.(3)女性の役割として,家内における装飾,清潔等の家事の抽出.(4)家事をまとめた「家政」が項目として登場.(5)「家政」の中に,技術としての「庭つくり」が登場.(6)「家政」の中に「農業園芸」「園芸法」が登場.以後連載として定着.女学雑誌における以上のような流れとは別に,「園芸」領域には,以下のような流れがみられた.2)園芸書からの流れ(1)博覧会資料に,「Horticulture」の訳としての「園芸」が登場.しかし一般には造庭の意味の園芸で移行.(2)「Horticulture」の意味での日本園芸会が設立され,雑誌の発行が開始される.しかし最初の園芸書は,造庭の意味のものとして出版され,一般の辞書にも,その傾向は続くが,明治40年ころから蔬菜,果樹,花卉を含む現在用いられている意味が現れる.(3)従来の農産に属するものを省略し,果樹花木など植物を生育させるための説明をするという『簡易園芸法』という書物の登場.女学雑誌にもその広告が出され,園芸書の女性領域への参加が始まる.このような,産業方面の園芸とは異なる園芸書の出版を経て,(4)日用百科全書の一つとして『住居と園芸』が登場.団らんの場として,住居と庭の重要性が述べられ,家族が団らんする姿を含む庭の挿絵が登場する.この挿絵の背景は盆栽等も含む日本庭園だが,主人公は庭ではなく団らんする家族である.このような家族の団らん風景を描いた挿絵の登場後,(5)「家庭園芸」をそのタイトルに含む『家庭園芸談』が登場する.以上のことから,女学雑誌における巌本の「一家の和楽団欒」や「ホーム」の提唱が次第に広がる中,その和楽団らんの担い手として女性が位置づけられていったこと,そして,その女性の役割として,清潔,装飾を重視する家事が強調され,それらが「家政」項目としてまとめられていく流れの中で,園芸が取り入れられていったことがわかる.そして,このような家政項目に園芸が取り入れられる状況を経て,園芸書と家政書がともに並ぶ下地ができ,園芸という領域の中に団らんを目的とする「家庭園芸」が生じてきたと考えられる.つまり,近代家族の源流と見られるホーム,団らんに関する言説の登場は,それを機に,その団らんの担い手としての女性の役割を明確にさせ,さらに庭や園芸も家庭領域に取り込んでいくという大きな広がりを見せることが明らかになった.今後はこの様な流れの中で,主に近代家族の中心となった新中間層の人たちを対象とし,庭と家族,家庭のあり方の関係の具体的変化について,さらに深く調べていきたいと考えている.

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“CiNii 論文 -  近代における園芸領域への団らんの浸透 : 女学雑誌と園芸書の分析から” http://t.co/RiHqEDyO
「家庭園芸」という語の成立とか。 / “エラーが発生しました(Error ocurred)” http://t.co/xPHoNR5K
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