著者
河内 朗
出版者
愛知学泉大学
雑誌
経営研究 (ISSN:09149392)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.67-86, 1992-09

小論は国際連合本部財務局において筆者が発案,実際に施行された一会計サブルーチンの改変を扱うもので次の構成をとる。1.基金と基金問決済:用語「基金」の実用上の意味,慣用例,複数基金間の関係の説明。2.国連における基金問会計の旧方式:基金間の清算はどのように行われ,それは何を論拠としたかの叙述。3.新マネジメント手法の導入による影響:予算編成方式をPPBSへと変えることによって発生した諸困難。4.一般会計原則に対するチェック:案出された解決法が適合するか,会計原則ごとに個別吟味。5.採用された情報システムの再構築:既往手続きと新方式との差異ならびに効果を捨象モデルを用いて論述。国連で採用されているシステムは政府会計に準じ,政府会計は多数の基金の存在を特徴とする。会計用語は日本語圏と英語圏とでは完全に照応しない例がままある。小論における語用法はアメリカ社会での実務慣行にもとつくが,この留保のもとでファンドを基金と置くと,基金は部外者が運営を委託すると共にその目的ならびに運用法を指定する点において勘定とは一線を画すと考えられよう。すなわち勘定とは異なって基金の場合,会計システムは受託者となる。したがって特別の注意義務が発生し,基金間の資金流用は絶対に許されない。そしてこの独立性という制約が情報システムを硬直させる。一方で組織管理の上では現実的課題として効率が重要となる。これについては論をまたないが効率性を高めるために手続きを簡素化する,言い換えるとシステムを柔軟にすれば前記制限に抵触しかねない。この相反する要求を満たすものとして国連本部では一定の基金間決済手続きが採用されていた。これは海外技術援助あるいは外国間勘定清算に近似するもので,その四対極記入ともいうべきシステムはよく稼働していたが,予算編成に関わる新手法が導入されるに伴い,そのままでは際限なく膨張するという根本的な問題が生じた。新手法はプログラム・プロジェクト予算構築法,略称PPBSである。これは伝統的な部署別経費の積み上げでは目的達成度が分からないから業務別に予算を編成し,その予算消化度をもってプロジェクトを統制するという概念ともいえよう。PPBSの導入は,各国外交官代表から成る委員会により政治的に決定された。本部全組織への影響は甚大であった。会計データは唯一の客観的計測値である。これは国連事務局においても変わりがない。しかも予算編成方式の変更は既存会計システムの根本をくつがえす。そこでPPBS導入への対応は,全部署による対会計部門への要求となってあらわれた。プログラムもプロジェクトも基金より単位が小さい。一つの基金は何種類ものプログラムを同時に進行させる。一プログラムは何種類ものプロジェクトをも含む。細分するとこれらは基金と等しく独立性を帯び,四極記入による照応相殺勘定(表1,2と図2)の数を,本文の数式で計算されるとおり,幾何級数的に増加させる。業務量増加は,通常,人員とコンピュータ容量を増強して対処する。けれども主任会計士であった筆者は諸要件を本文で述べたように熟慮,原始記録をおこなう時点で相殺記入の仕訳けを廃止した。結果は図3に止揚される。関連担当者会議では不安と反対の声が上がった。主なものは:a.現状報告書に不均衡残高が残る。b.銀行口座をもつ特定の基金に従属するかのような格好になる。不満aに対してはそれが本来の各基金の姿である,脱落するのは第二次データであってこれは包括性原則に反してないと説得し,抗議bに対しては完全な基金の独立は固有の銀行口座が開かれてのち初めて可能なのだが国連としてはすでに世界各地に百もの通貨・用途別口座をもつ,また資金と現金とは同じではないのだと解説した。処理データの統制を日計帳の照合に依存する上記改変は,結局,会計部門主導のもとに強制された。そしてその後も無修正のまま円滑に運用されている。実現された経費増の未然防止とシステム効率化の効用は,はかりしれない。

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