著者
河内 朗
出版者
愛知学泉大学
雑誌
経営研究 (ISSN:09149392)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.135-153, 1991-09

国際関係史の範疇に属す小論は,講演草稿からの抜粋である。講演自体は1990年10月,国際史問題再検証学界第10回世界大会(ワシントン市)にて行われた。この学界は「歴史を事実で裏づける」方針を信条とするが,そのため官製歴史を擁護する既成勢力からの様ざまな圧迫にさらされている。太平洋戦争にまつわる当学界の立場は,感情論を排して事実に立脚するならば:1)日本をだまし討ちの極悪人に仕立て上げ,それを契機にアメリカを参戦に引き入れたのはルーズベルト大統領であった。2)戦争末期における大量破壊,なかんずく原子爆弾の対民間人使用は,必要不可避だったとはいえない。つぎに小文の論稿内容を述べる。敗戦国日本は,7年間,アメリカ合衆国による軍事占領下に置かれた。ドイツの場合とは異なって全面管理されたわけではないが検閲,権力への追従,価値観の転倒,教育の再編成,アメリカ余剰農産物輸入から生じた食生活の変化などの原因から日本文化の伝統は,大きく歪曲されたと考えられる。ただし私たち日本人がそのことを自覚しているか否かは別であり,その意味では事実誤認は他にも数多く見受けられる。たとえば「日本文化は中国から朝鮮を経て伝来した」一般論も誤謬の一つであり,ここでは近代の国民国家の概念が古代の地域総称と混同されている。すなわちより正確には「アジア大陸の黄河文化がコリア半島を間に置いて日本列島に影響をおよぼした」と記述すべきであろう。日本人も日本文化も渡来したのではなくて2万年前に大陸から分離した日本列島において自然形成されたものである。この形成には日本語の他言語借用能力が大きく関わる。日本語は英語とひとしく外来観念を消化する構造をもつ。ちなみに中国語にはこの能力が欠落している。つまり話者は,中華尊大意識から容易に脱却しかねるという事実があり,これは言語学者らがつとに指摘するところである。占領下の日本でアメリカ軍は天皇制を許容,社会秩序の維持に成功した。だが復興援助を政策としたわけではない。援助はすべて非公式のものであり,対日マーシャルプランは存在しなかった。航空機と自動車の生産は,特に禁止された。その代わり日本はアメリカ余剰農産物の捌け口となる。むろん敗戦後の食料の絶対不足という事情はあった。けれども戦後になって初めて採用された小学校における給食制度は,いったい何を材料としたか。アメリカ精麦生産者協会がマッカーサー司令部と緊密な連絡を保ったことは記録に残る。しかもこれらはおおかたの当初の希望的観測を裏切って後日,有償と判明し,かつ現金で決済された(ニューヨーク・タイムズ記事1973年1月20日)現在の日本が輸入食料の3分の1をアメリカ合衆国に依存しているのは周知のとおりであり,個別データは政府の通商白書にくわしいが,成長期を通じてパン食に馴れ親しんだ米食日本人のコメの消費量は一人あたり年間50キロ,言い換えると戦前の3分の1に落ち込んでいる。この食生活の変化が社会に反映しないはずがない。伝統が失われて一見アメリカ風の現象が日本に満ち,それが吟味もされず,当然のこととして受け入れられているかのようである。キモノ姿が街頭から消えたのは時の流れとしても,近年の調査結果に示されるように,大半の日本人が夜パジャマを着る習慣を身につけたのはサル真似,ここに極まったの感が深い。このサル真似が日本文化の低調を招いたのではないかと思われる。国民総生産がふえて各種のカルチュア教室が大繁盛だというのに,これこそ現代日本文化なりとして誇れるものは何も出てこない。なぜか。私たちが摂取したと信じるものが表層だけの疑似アメリカ文化に過ぎないからに違いなく,異文化の理解は言語の深奥に横たわる思想や理念にまで到達しなければならないのに外国語が不得手な日本人にはアメリカの精神面までは体得不能だからかもしれない。このような軽薄アメリカ化社会の現況も,もとを糾せばアメリカ軍に占領された原体験に行きつく。とくに「一億総ざんげ」の安易な概括と,いわゆる民主教育とに論者は一因を見出す。よく知られた私たちの歴史的健忘症に加え,戦前の日本と日本人とを一括排除する風潮は戦後世代に大きな便宜をもたらした。ために統治層は国民無視の過去を払拭して目前の私益追求に専念することが可能となり,拝金主義がおこって名誉と正論と主張がすたれた。言論界も同様である。既得権益集団による自虐傾向は事実の客観的再検討をいさぎよしとせず,教科書問題で異議をとなえた気骨の政治家4人まで,ヒステリックな感情論だけで役職罷免に追い込んだ。日本の主流マスコミの自虐はアメリカ言論界の日本人悪者論と対を成す。これもアメリカ軍日本占領の帰結であって「正義は常に勝ち,アメリカ人は常に正しい」小児的論理に短絡するものであるが,多くのアメリカ人はそれが実は冷徹な論理ではなくて,潜在欲求という不安な心理に根ざすものであることが分からないもようであり,この希求願望の前には不利な事実は事実であってもたびたび意図的に隠蔽されるか,あるいは歪曲される次第となる。このようなアメリカの一方的正義論も,また日本の「過去の価値観はすべて悪」一括も共に不合理であり,きわめて非科学的な対処だと思推される。
著者
堤 有子 小崎 智照 安河内 朗
出版者
日本生理人類学会
雑誌
日本生理人類学会誌 (ISSN:13423215)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.131-142, 2004-11-25 (Released:2017-07-28)
参考文献数
16

成人女性の多くは生理的変化や精神状態の変化を伴う性周期を有しており、近年この性周期に関連したタスクパフォーマンスの変動について注目されている。また今日、女性の社会での活躍は著しく、その職域も拡大していることから、女性の働く意欲と能力を存分に発揮できるような社会システムが要求されている。このような社会背景においても性周期に関連したタスクパフォーマンスの変動について明確にすることは重要なことのひとつと考えられる。性周期に関連したタスクパフォーマンスの変動についての先行研究は、特に身体的不快感や気分の変化といった愁訴の性周期変動もしくは性ステロイドホルモンの性周期変動に関連したタスクパフォーマンスの変動に注目した研究が行われている。性周期に伴う愁訴は月経随伴症状ともいい、一般的に月経前期に「憂鬱」や「いらいらする」などの精神症状や乳房痛などの乳房症状が出現する「月経前症状」と月経中に下腹痛や腰痛の出現する「月経時症状」がある。
著者
許斐 剛志 江島 尚 石橋 圭太 安河内 朗
出版者
日本生理人類学会
雑誌
日本生理人類学会誌 (ISSN:13423215)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.95-106, 2002-05-25 (Released:2017-07-28)
参考文献数
20
被引用文献数
1

It has been well known that far infrared rays radiated from ceramics fiber has thermal effect on humans. This study aimed to investigate if the fabric containing the ceramics fiber, with which the seat and back of chair (FIR) was covered, improve the problems of office workers such as neck - shoulder stiffness and cold sensation of the limbs as compared with non-ceramic fiber chair (BLANK). Ten healty male students (22.31±1.1year-old) volunteered for the study. The decrement of skin temperatures of the dorsal hand and foot at FIR was decreased. The activity of frontal muscle kept a resting level at FIR during mental work, but increased at BLANK and the enhancement of arousal level above optimum was also estimated from the increase in the inclination angle of the trunk at BLANK. It was suggested that FIR might keep the arousal level moderate and improve cold sensation of limbs.
著者
許斐 剛志 江島 尚 石橋 圭太 安河内 朗
出版者
日本生理人類学会
雑誌
日本生理人類学会誌
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.95-106, 2002-05-25
参考文献数
20
被引用文献数
1
著者
河内 朗
出版者
愛知学泉大学
雑誌
経営研究 (ISSN:09149392)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.67-86, 1992-09

小論は国際連合本部財務局において筆者が発案,実際に施行された一会計サブルーチンの改変を扱うもので次の構成をとる。1.基金と基金問決済:用語「基金」の実用上の意味,慣用例,複数基金間の関係の説明。2.国連における基金問会計の旧方式:基金間の清算はどのように行われ,それは何を論拠としたかの叙述。3.新マネジメント手法の導入による影響:予算編成方式をPPBSへと変えることによって発生した諸困難。4.一般会計原則に対するチェック:案出された解決法が適合するか,会計原則ごとに個別吟味。5.採用された情報システムの再構築:既往手続きと新方式との差異ならびに効果を捨象モデルを用いて論述。国連で採用されているシステムは政府会計に準じ,政府会計は多数の基金の存在を特徴とする。会計用語は日本語圏と英語圏とでは完全に照応しない例がままある。小論における語用法はアメリカ社会での実務慣行にもとつくが,この留保のもとでファンドを基金と置くと,基金は部外者が運営を委託すると共にその目的ならびに運用法を指定する点において勘定とは一線を画すと考えられよう。すなわち勘定とは異なって基金の場合,会計システムは受託者となる。したがって特別の注意義務が発生し,基金間の資金流用は絶対に許されない。そしてこの独立性という制約が情報システムを硬直させる。一方で組織管理の上では現実的課題として効率が重要となる。これについては論をまたないが効率性を高めるために手続きを簡素化する,言い換えるとシステムを柔軟にすれば前記制限に抵触しかねない。この相反する要求を満たすものとして国連本部では一定の基金間決済手続きが採用されていた。これは海外技術援助あるいは外国間勘定清算に近似するもので,その四対極記入ともいうべきシステムはよく稼働していたが,予算編成に関わる新手法が導入されるに伴い,そのままでは際限なく膨張するという根本的な問題が生じた。新手法はプログラム・プロジェクト予算構築法,略称PPBSである。これは伝統的な部署別経費の積み上げでは目的達成度が分からないから業務別に予算を編成し,その予算消化度をもってプロジェクトを統制するという概念ともいえよう。PPBSの導入は,各国外交官代表から成る委員会により政治的に決定された。本部全組織への影響は甚大であった。会計データは唯一の客観的計測値である。これは国連事務局においても変わりがない。しかも予算編成方式の変更は既存会計システムの根本をくつがえす。そこでPPBS導入への対応は,全部署による対会計部門への要求となってあらわれた。プログラムもプロジェクトも基金より単位が小さい。一つの基金は何種類ものプログラムを同時に進行させる。一プログラムは何種類ものプロジェクトをも含む。細分するとこれらは基金と等しく独立性を帯び,四極記入による照応相殺勘定(表1,2と図2)の数を,本文の数式で計算されるとおり,幾何級数的に増加させる。業務量増加は,通常,人員とコンピュータ容量を増強して対処する。けれども主任会計士であった筆者は諸要件を本文で述べたように熟慮,原始記録をおこなう時点で相殺記入の仕訳けを廃止した。結果は図3に止揚される。関連担当者会議では不安と反対の声が上がった。主なものは:a.現状報告書に不均衡残高が残る。b.銀行口座をもつ特定の基金に従属するかのような格好になる。不満aに対してはそれが本来の各基金の姿である,脱落するのは第二次データであってこれは包括性原則に反してないと説得し,抗議bに対しては完全な基金の独立は固有の銀行口座が開かれてのち初めて可能なのだが国連としてはすでに世界各地に百もの通貨・用途別口座をもつ,また資金と現金とは同じではないのだと解説した。処理データの統制を日計帳の照合に依存する上記改変は,結局,会計部門主導のもとに強制された。そしてその後も無修正のまま円滑に運用されている。実現された経費増の未然防止とシステム効率化の効用は,はかりしれない。
著者
綿貫 茂喜 大箸 純也 佐藤 陽彦 安河内 朗 小林 宏光 大箸 純也 綿貫 茂喜
出版者
九州芸術工科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

生体電気現象を主な対象とした、コンピュータによる信号の監視・記録・分析ソフトウェアを開発した。対象としたコンピュータは、一般的に用いられているNEC PC98,IBM PC-ATの互換機および数社のAD変換器とし、一般的な機器のみで構成できる。また分析ソフトウェアについてはMacintoshでも利用できるようにした。本ソフトウェアによって、生体電気現象の波形観察と長時間の変化傾向の観察が同時に可能となり、また分析のためのマークを含めた記録が長時間可能となった。これらの監視記録装置としての機能以外に、時間制御を主とした簡易プログラムが可能であり、実験スケジュールを組み込むことで実験補助としての機能を持つ。また簡単な刺激発生の制御にも利用できるために、実験機器としての機能も有し、特殊な外部プログラムを利用することで、記録と並行して周波数分布の監視も可能である。またノート型のような小型のコンピュータでも利用可能であり、携帯用の記録機としても利用可能である。記録したデータの分析ソフトウエアとして、記録信号の表示、テキストファイル変換、FFT法による周波数分析、心電図のR棘間隔の検出、連続血圧計出力からの最大、最低血圧の読み取り、積分値の算出、APDFの算出、CNVの算出、較正波形の読み取り、単純分布の算出等を作成した。また2つのみであるが、他のソフトウェアのためのファイル変換も行なえる。グラフィカルインターフェースは有しないが、バッチ処理的な利用で効率の良いデータ処理が可能であり、機能的には多くの研究に有効であると考える。本ソフトウエアは無償で提供する。
著者
小林 宏光 安河内 朗 綿貫 茂喜 中山 栄純
出版者
石川県立看護大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

心拍変動解析の手法は数学的には高度化してきているが,これが必ずしも生理学的指標としての心拍変動測定の精度・信頼性の向上につながっていない。我々は以前から心拍変動測定における呼吸コントロールの必要性を主張してきており,現状では専門の研究者の間では一定の理解が得られていると思われるが,市販されている心拍変動解析ソフトウェアではこの点に配慮したものは存在しない。本課題は、心拍変動測定・解析のためのソフトウェアを開発することを目的とするものであるが,周波数解析の手法などは従来からあるシンプルで確立した手法を用い,一方で呼吸の影響やデータの時間的整合性などに関しては十分な配慮した設計を行い,この指標の実際の測定における信頼性の向上につなげることを目標とする。本課題ではそれぞれに特徴を持つ3種類の心拍変動測定・解析システムを開発した。開発されたソフトウェアは,できるだけハードウェア環境に依存しないよう心がけて作成したが,AD変換を要するシステムでは特定の計測ボードに依存する部分が存在する。しかし,逆に心電計に関しては汎用性を持つので,心電計と解析ソフトウェアが一体となったメーカー製のシステムと比べれば,汎用性の面でもメリットがあると思われる。POLAR S-810を用いたシステムは,特定の心拍計に依存したシステムであるが,この機器の価格が非常に安いため,多人数の同時測定には特に適していると思われる。呼吸の影響やデータの時間的整合性に対する配慮はメーカー製の製品で最も欠けている点であるが,これらの点についても一定の配慮をした設計を行った。今回開発したソフトウェアは,まだ改良の余地を残すものではあるが,現段階でも十分な有用性を持つものであると思われる。
著者
安河内 朗
出版者
九州芸術工科大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

本研究は、日韓の民族服である和服と韓服(チョマチョゴリ)を両国の被験者それぞれに着衣させ、高温曝露中の生理的、心理的諸反応を比較することによって衣文化にともなう耐暑反応の違いを検討することを目的とした。被験者は、日本と韓国の健康な女子大学生各々6名で、身長、体重、体表面積、皮下脂肪厚にみられる身体的特徴はほぼ同じであった。使用した和服は浴衣、帯、下駄など、韓服はチョマ、チョゴリ、靴などで構成され、それぞれの全重量は1,232g,1,151gであった。また生地は和服が綿、韓服が絹であった。被験者は同国の2名ずつが1組となって和服か韓服のいずれかを着用し、前室26℃(RH50%)で30分安静後、35℃(RH50%)の高温環境へ立位に近い椅座位で90分間曝露された。測定項目は、直腸温、皮膚温(7点)、発汗率、心拍数、及び温冷感、快適感の主観評価であった。発汗率が和服では日韓両被験者でほぼ等しかったが、韓服においては日本人被験者の方が韓国人被験者よりも大きかった。平均皮膚温の上昇度は、和服で日本人被験者がより大きく、韓服では逆に韓国人被験者がやや大きい値を示した。直腸温の上昇度は、和服で日韓両被験者はほぼ等しく、韓服において韓国人被験者の方が小さかった。韓服では日本人被験者はより大きな発汗率を示したにもかかわらず直腸温の上昇度は大きくなることが示された。
著者
安河内 朗 前田 享史 石橋 圭太 樋口 重和 樋口 重和
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究では光、温度、重力の各ストレスが及ぼす生理反応への影響から現代生活における適応性を評価した。その結果以下のことがわかった;1)朝の十分な光曝露と夜の電球色照明の選択は、概日リズムを調整し夜型化を抑制する。2)身体の運動不足や冬季暖房の慢性的利用は基礎代謝量を低下させ、耐寒性、耐暑性を低下させる。身体的運動はこれらの低下を向上させる。3)立ちくらみ頻度は夜型に多く、夜型は重力負荷に対する心拍応答が大きく直立耐性を低下させる。