著者
小池 保
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学芸術情報学部紀要 (ISSN:13471023)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.47-67, 2006-11-30

かつての売り声は、なぜ日本人の心の原風景に流れるBGMとなり得たのか—— 心に響く表現が、どのように工夫されていたのか、音声分析を用いながら考察を重ねるうち、売り声が「市井の詩」となり得たいくつかの条件をはじめ、高いコミュニケーション力を備えていることが明らかになってゆく。やがて、拡声器で売り声を聞かせる時代が到来する。なぜ拡声器が用いられたのか、日本人の住まい方の構造変化にまつわる問題点が見えてくる。その点に注目しながら探るうちに、戦後に起こったコミュニケーション上のパラダイム・シフトとの関係が浮かび上がる。日本人に親しまれた売り声の文化は、事実上、消えてしまった。しかし、それは生活の片隅でさえずっていた小鳥がいなくなったというレベルの、ささいな出来事ではなかった。忍び寄る気体の毒性をいち早く知らせる、カナリアの死であったのかもしれない。

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