- 著者
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田中 邦明
- 出版者
- 日本理科教育学会
- 雑誌
- 理科教育学研究 (ISSN:13452614)
- 巻号頁・発行日
- vol.42, no.3, pp.1-9, 2002-06-17
- 参考文献数
- 39
- 被引用文献数
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我が国の現行の中学校理科教科書には,両生類の呼吸方法について,「オタマジャクシはえら呼吸し,カエルは肺呼吸(一部は皮膚呼吸)する」と記述されている。一方,カエル幼生の呼吸機能分担に関する最近の研究によれば,ヒキガエル類を除くカエル類のオタマジャクシ(無尾目の幼生)は,後肢が発達する変態期以前からすでに肺呼吸を始めており,オタマジャクシの肺呼吸は嫌気的水中で生き延びるのに役立っているという。また,系統進化の観点から,オタマジャクシの肺呼吸はセキツイ動物の肺の獲得と進化にかかわる痕跡的な行動とみられている。さらに,ふ化直後のオタマジャクシではエラ呼吸よりも皮膚呼吸の方が重要な役割を果たしていると考えられている。したがって,少なくとも「オタマジャクシはえら呼吸する」という見解は,厳密な意味では,誤りを含む一種のミスコンセプションとみなされる。オタマジャクシの肺呼吸は,すでに1931年にヨーロッパで発見され,1982年にはウシガエルの幼生で,肺と皮膚がエラとともに呼吸分担機能をもつことが明らかにされていた。しかしながら,オタマジャクシの呼吸についての不正確な扱いは,我が国の教科書や一部の専門書だけでなく,海外の生物学の専門書にもみられることが報告されている。このようなミスコンセプションが発生するメカニズムには,誤った教育時報の関与も考えられるが,魚類のような水生動物はエラ呼吸し,高等な陸生動物は肺呼吸するという,現生の脊椎動物についての認識から,両生類も水中生活のオタマジャクシはエラで呼吸し,陸上生活期のカエルは肺で呼吸するに違いないという演繹的推論が生まれやすいことも関与しているものと考えられる。このようなミスコンセプションを克服するためには,教育情報の訂正のほかに,オタマジャクシの呼吸生理実験を取り入れた教育プランの活用が必要と考えられる。