著者
田中 邦明
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.1-9, 2002-06-17
参考文献数
39
被引用文献数
2

我が国の現行の中学校理科教科書には,両生類の呼吸方法について,「オタマジャクシはえら呼吸し,カエルは肺呼吸(一部は皮膚呼吸)する」と記述されている。一方,カエル幼生の呼吸機能分担に関する最近の研究によれば,ヒキガエル類を除くカエル類のオタマジャクシ(無尾目の幼生)は,後肢が発達する変態期以前からすでに肺呼吸を始めており,オタマジャクシの肺呼吸は嫌気的水中で生き延びるのに役立っているという。また,系統進化の観点から,オタマジャクシの肺呼吸はセキツイ動物の肺の獲得と進化にかかわる痕跡的な行動とみられている。さらに,ふ化直後のオタマジャクシではエラ呼吸よりも皮膚呼吸の方が重要な役割を果たしていると考えられている。したがって,少なくとも「オタマジャクシはえら呼吸する」という見解は,厳密な意味では,誤りを含む一種のミスコンセプションとみなされる。オタマジャクシの肺呼吸は,すでに1931年にヨーロッパで発見され,1982年にはウシガエルの幼生で,肺と皮膚がエラとともに呼吸分担機能をもつことが明らかにされていた。しかしながら,オタマジャクシの呼吸についての不正確な扱いは,我が国の教科書や一部の専門書だけでなく,海外の生物学の専門書にもみられることが報告されている。このようなミスコンセプションが発生するメカニズムには,誤った教育時報の関与も考えられるが,魚類のような水生動物はエラ呼吸し,高等な陸生動物は肺呼吸するという,現生の脊椎動物についての認識から,両生類も水中生活のオタマジャクシはエラで呼吸し,陸上生活期のカエルは肺で呼吸するに違いないという演繹的推論が生まれやすいことも関与しているものと考えられる。このようなミスコンセプションを克服するためには,教育情報の訂正のほかに,オタマジャクシの呼吸生理実験を取り入れた教育プランの活用が必要と考えられる。
著者
白數 哲久 小川 哲男
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.37-49, 2013-07-17 (Released:2013-08-09)
参考文献数
25
被引用文献数
1

本研究では,小学生の科学的リテラシー育成のために「科学的探究」学習による科学的概念の構築を図るための理科授業のデザインを,ヴィゴツキーのZPD理論と,米国のFOSSによる水平的カリキュラム設計を基盤とし,ZPDにおける「科学的探究」の教授・学習モデルと教師の役割を可視化し,その有用性を小学校第3学年「じ石」の授業実践によって検証することを試みた。その結果,「自由な探索」→「体験的な学び」→「科学的概念との結びつけ」といった水平的な授業デザインの中で,教師が子どもの生活的概念を呼び起こし,適度な困難さのある発問をし,適切なタイミングを見計らって「教材」「言葉」「方法」を提示することで,生活的概念間の相互作用による再構成が起こるとともに,子どもが科学的概念への意識化を図りうることが示唆された。
著者
永井 秀樹 川北 一彦
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.35-43, 1999-07-31
参考文献数
9
被引用文献数
3

小学校理科「電気のはたらき」の単元で,電流,または,電気に関する子どもの考え方について調査・分析した。初めの段階は,豆電球,モーター,乾電池,及び簡易検流計による観察・実験の結果に対して,粒や矢印による電流モデルを用いて子どもの考え方を描かせた。観察・実験の直後は消費(減衰)モデルが一時的に減少するが,時間が経過すると,また元へ戻ってくる子どももみられた。観察・実験と話し合いを繰り返す中で,「使えば電池が消耗する」という日常経験と,「豆電球(またはモーター)の前後で電流が変化しない」こととの矛盾が消費モデルが復活する原因らしいことが分かった。そこで,電池まで含めた子どもが考えたモデル「電気マンモデル」「カミナリ君モデル」等を活用することが有効であることが分かった。これらのモデルは,電池の直列・並列つなぎの場合に対しても有効なモデルであった。
著者
松森 靖夫 一瀬 絢子
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.271-277, 2015

本研究では, 計121人の小学校教員志望学生を対象に, 月の見かけの位置と観測時刻に関する認識調査を行った。具体的には, 計7種類の月の見かけの形(三日月, 上弦の月, 十二日月, 満月, 十八日月, 下弦の月, 及び二十六日月)を取り上げ, 夜間の肉眼観測によって見えはじめる位置と時刻, 及び見えなくなる位置と時刻について問うものであり, 質問紙法を用いて実施した。<BR>調査の結果, 科学的に認識できていた小学校教員志望学生は, 満月において約5%であり, 他の6種類の形においては皆無であった。また, 月の見かけの位置と観測時刻に対する小学校教員志望学生のプリコンセプションも認められた。
著者
浅井 尚輝 森本 弘一
出版者
日本理科教育学会
雑誌
日本理科教育学会理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.155-162, 2012-07

デジタル機器が氾濫している私たちの現代生活は,その内部を知らなくても,機械が結果を表示してくれたものを何の疑いもなく利用している。我々は,構造を知らない「ブラックボックス」をわからないまま使っているのである。そこで,デジタル機器の自作デジタル体温計の教材化を行った。数学を使って測定値処理をさせることで,デジタル体温計の仕組みを理解する1つの方法を提案する。学校現場で使用することを考慮して材料は比較的安価なもの,工作の作業は簡単であること,使用の手順も簡便なものとした。温度センサーを回路に組み込み,標準温度計と共に水温を測定した。測定値は電圧で表示される。10個の測定した電圧値をコンピュータ処理すると,温度上昇に比例して電圧値が上がり,高い相関が得られた。この相関関係から回帰直線を作り,温度センサーで実際の体温を測定すると,水銀体温計の測定値に近い数値を示した。これよりデジタル体温計の仕組みと,数値処理で科学と数学の接点が得られる実験となった。また,別の温度センサーを使って追試してみた。上記と同様の相関が得られたため,比較実験が可能になると考える。この自作デジタル温度計を作成することで,子ども達は少しでもデジタル機器の構造の理解が深まることが期待される。学習指導案も提案している。
著者
久坂 哲也
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.397-408, 2016-03-19 (Released:2016-04-23)
参考文献数
59
被引用文献数
3

メタ認知は学力や動機づけ, 学習方略などと密接な関係にあるため, 我が国の理科教育学研究においてもメタ認知を対象とした研究が数多く見受けられるようになった。しかし, メタ認知の重要性は多くの研究者が認めるところであるが, メタ認知は高次な認知機能であると同時に抽象的な概念であることから研究の遂行が困難な側面も併せもっている。 そこで, 我が国の理科教育学研究におけるメタ認知研究の動向と課題を明らかにするため, 代表的な学術誌から文献を収集して分析を行った。その結果, 観察や実験活動を中心とした理科学習場面における児童生徒のメタ認知的モニタリングやメタ認知的コントロールといったメタ認知的活動を発問や教材教具の工夫によって直接的に促す授業設計や学習方略に関する研究が盛んに行なわれており, 実践的な知見が蓄積されていることが示された。しかし一方, 科学的思考や科学的探究といった科学的な問題解決能力を育成する際に必要なメタ認知的知識の種類やそれらを獲得させるための教授方略に関する研究といったメタ認知の知識的側面に着目した研究が少ないことが明らかになった。また, メタ認知を変数として扱った場合の測定方法に関しても課題が残されており, 今後の研究が待たれるところである。
著者
廣木 義久 山崎 聡 平田 豊誠
出版者
日本理科教育学会
雑誌
日本理科教育学会理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.47-56, 2011-07

砂の形成に関する小・中・大学生の理解を調査し,小・中学校における岩石の風化作用に関する学習の問題点を議論した。小学5学年の単元「流れる水のはたらき」の学習前の児童においては,砂の形成メカニズムに関する考えは極めて多様であるが,「流れる水のはたらき」の学習後は,侵食モデル(砂は川で石や岩が水流によって削れてできる)で説明する児童と,衝突モデル(砂は川で礫同士がぶつかり合って砕けてできる)で説明する児童が増加する(それぞれ29.9%,25.6%)。そして,中学校における単元「活きている地球」の学習後は,侵食モデルが52.5%と増加する一方,風化モデルで説明する生徒の割合は8.8%にとどまった。これらの結果から,侵食モデルと衝突モデルは小学5学年の「流れる水のはたらき」の学習で獲得され,侵食モデルは中学1年の風化・侵食作用の学習後に強化されていることがわかる。岩石の風化作用による砂の形成を理解させるための方策としては,中学校における岩石の風化作用の授業に土の学習を取り入れることが有効であると考えられる。
著者
山下 修一
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.125-132, 2007-07-31

千葉県長期研修生の研究報告書の特徴を探るために,過去20年間の資料を5年ごとに4ブロックに分けて分析した。その際に,千葉県教育研究集会(理科)の研究レポート,学会誌である理科教育学研究と比較した。長期研修生研修報告はタイトル・仮説の記述・研究方法,千葉県教育研究集会での研究レポートはタイトルと仮説の記述,理科教育学研究はタイトルについて,データベース化して比較分析した。その結果,長期研修生研修報告の特徴として以下の4点が明らかになった。(1)タイトル末表現は,1986-1990年度では「教材化」と「検討」が多く用いられていたが,2001-2005年度には「在り方」が増加して57.1%のタイトルに用いられていた(2)タイトルに含まれるキーワードは,1986-1990年度では「調査」が多く含まれていたが,2001-2005年度には「学習」が増加して75.0%のタイトルに含まれていた(3)仮説については,千葉県教育研究集会での研究レポートには1987年度当初から記述があったが,長期研修生研修報告には1994年度から記述されるようになった(4)研究方法については,事前・事後調査によって授業を検証しているものが,1986-1990年度から2001-2005年度にかけて増加していた
著者
榊原 保志 小高 正寛
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.35-44, 2007-11-30

本論はペットボトル簡易気圧計を用いた気象観測実習の新しい方法を提案した.階段を上り下りすることにより,ペットボトルに剌したストロー内の水面の変化から気圧の変化を読み取る実習である。気圧が減少/増大するとストロー内の水面は上昇/下降する。校舎の各階で気圧を観測した結果,各々の階と1階の気圧差には比例の関係があり,4階と1階には1 hPa以上の気圧差が認められた。階を上り下りする際に生じる気圧の変化量でも,水面の変化は十分読み取ることができた。気温の変化がなく,1 hPaの気圧の変化があったときの水面の変化について理論的に考察を行ったところ,ストローの半径が小さいほど,ペットボトルに入っている空気の体積が大きいほど,ペットボトルに入れる液体の密度が小さいほど水面の変位は大きくなることが分かった。エレベーターによって1階と4階を移動する実験でもおおむね同様な結果が得られた。この簡易気圧計を用いた授業を琉球大学教育学部附属中学校において実施した結果,多くの生徒が水面の変化を確認できたこと,この教具は役立ち実習が楽しいと感じたこと,そしてこの実習は天気の学習に意欲を高めることなどが分かった。
著者
松森 靖夫 上嶋 宏樹
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.99-106, 2009-03-13
被引用文献数
1

本研究の目的は,以下の2点である。(1)小学校教員志望学生の天文学的資質を高めるために,太陽から放射される可視光線を題材にした学習指導資料を作成する。(2)作成した学習指導資料の効果(太陽から放射される可視光線に対する小学校教員志望学生の認識状態が改善されるか否か)について検討を加える。その結果,以下のような知見を得たので報告する。(1)計7ステップからなる学習指導資料を作成できたこと(ステップ1:2種類の"モノの見え方",ステップ2:太陽はなぜ見える?,ステップ3:太陽の可視光線はどこから出てる?,等)。(2)作成した学習指導資料の効果が実証され,小学校教員志望学生の天文学的資質に改善が認められたこと(本学習指導資料が,太陽から放たれる可視光線に関する認識の向上に寄与できたこと)。
著者
杉尾 幸司 吉田 安規良 本多 正尚 松田 伸也
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.115-122, 2008-11-30
参考文献数
3
被引用文献数
1

児童生徒の理科に対する興味・関心等を育成することを目的として合宿形式の学習活動「中学生サイエンスサマーキャンプ」を実施した。実施内容として,森林内部の動植物の夜間生態観察やマングローブ林の生物観察,天の川と星座の観察,小型天体望遠鏡での木星・星雲の観察,地層の観察,タンパク質と脂肪の消化実験を計画した。沖縄県のように豊かで特色のある自然環境を持つ地域においては,生物観察などの野外活動は大変魅力あるプログラムであるが,日程の変更が容易でない宿泊型体験学習において,野外活動を主体とした計画は,天候に依存するリスクが大きくなる。今回の取り組みにおいても,実施当日は台風接近による悪天候にみまわれたため,夜間生態観察の代わりに室内でのスライドを使った講義を,星座観察の代わりに天体望遠鏡の構造や天球儀を用いた天体のみかけの運動についての講義を行うなど,実施内容の一部を代替プログラムに変更した。天候の影響を受けやすい内容に関しては,効果的な代替プログラムについても十分に検討する必要がある。全日程終了後のアンケート結果からは,取り組み内容の「おもしろさ」「わかりやすさ」に関して高い評価が得られた。また,「全体の印象」「来年の参加」などの項目についても高い評価が得られるなど,実施内容は参加者に高く評価された。大学が今回のような取り組みを通して地域社会への貢献により積極的に取り組むためには,現実に即した支援体制の充実が強く望まれる。
著者
佐藤 寛之 森本 信也
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.29-36, 2004-09-17
被引用文献数
1

Head,J.O.,Sutton,C.R.は,「科学概念におけるメタファー表現は,個人の認知・情意・レトリックが融合したものである。」としている。つまり丿情意的なこだわりを持ち,類推することで新しい概念の構築がなされていることを示している。子どもにおける自然事象の概念を表現する能力を養うため,理科授業においてはこうした視点に立つ類推のような論理の構築方法を学ぶ学習場面が必要である。同時に このことは情意と認知が融合した「温かい認知(warm cognition)」の有用性を示すものであり,理科の授業デザインにおける必須条件と考える。
著者
小林 丈芳 跡部 紘三 松川 徳雄 福岡 登
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.21-30, 2001-03-31

原子力・放射線教育の在り方を考えていくために,地域の生活環境が青少年の原子力等の知識やイメージにどのような影響をもたらすかを明らかにする目的で,徳島県と原子力発電所のある福井県敦賀市の中学生・高校生を対象に「エネルギー・原子力等に関するアンケート調査」を行なった。その結果,彼らの原子力・放射能・放射線に対する知識やイメージ等に関して次の点が明らかになった。現代社会において,徳島県の生徒は「火力」,敦賀市の生徒は「原子力」を最も重要なエネルギー資源と考えているのに対し,21世紀の社会では両地域の生徒共に「太陽熱・太陽光」を重要であると考えている。(2)同地域の生徒の多数が原子力・放射能・放射線についての知識をマスメディアから得ている。徳島県の生徒は「中学校」,敦賀市の生徒は「博物館・展示会」「家庭」から得たと回答した割合が高い。(3)原子力・放射能・放射線の知識に関して,徳島県の生徒は「原子爆弾」,敦賀市の生徒は「原子力関連施設」や「核燃料」に関連した用語や知識の回答が多い。また,敦賀市の生徒は,原子力等に対して「危険」とイメージする傾向にある。(4)エネルギー資源として女子は「太陽熱・太陽光」を重要であると考えている。また,原子力等の知識やイメージにおいて,男子は「危険」,女子は「原子爆弾」「有害」「恐い」「レントゲン」などを回答する傾向にある。これらの要因として,男女の知識量や感性の違い,胎児への悪影響に対する意識の違いなど教科教育以外の要因が考えられる。(5)(2)(3)より,知識の習得に関して,徳島県の生徒は中学校における平和学習,敦賀市の生徒は自治体や企業による啓発活動の影響を強く受けているものと考えられる。
著者
島村 裕子 増田 修一
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.81-88, 2017-07-18 (Released:2017-08-04)
参考文献数
10

本研究では, 理科教育における花粉管の伸長を観察できる植物およびその最適条件を明らかにするために, 花粉管の伸長観察に適した植物の探索を行った。その結果, ホウセンカの花粉は, ショ糖濃度10%で最も発芽率が高かった。一方, サルスベリ, モクセンナおよびチャノキにおいては, ショ糖濃度15%において最も花粉管の伸長が認められ, いずれの植物においても0.5%のエタノールを加えることで花粉管の発芽率が高くなる傾向が認められた。また, 薬包紙に包んだ花粉をシリカゲルとともに密封容器に入れ, 乾燥条件下で家庭用冷蔵庫にて, 6ヶ月間冷凍保存したところ, ホウセンカおよびモクセンナの花粉は, 寒天培地に付着10分後に発芽を開始し, 冷凍前と同程度の花粉管の伸長速度が保たれていた。チャノキおよびサルスベリでは, 発芽までに30分から1時間を要したが, 授業の前に花粉を培地につけておけば, 授業時間内に花粉管の伸長を観察できることが示唆された。マリーゴールド, ジニアリネアリス, ヒャクニチソウ, センニチコウおよびヒオウギスイセンは, 花粉管の伸長観察には適していなかったが, 花粉が学校でよく扱われる植物とは異なる形状をしていることから, 理科教材として興味深く観察することができると考えられた。これら本研究で明らかにした花粉管の観察およびその伸長に適した植物およびその条件に関する情報は, 花粉管の観察・実験への利用・応用に資することが期待される。
著者
猪口 達也 後藤 大二郎 和田 一郎
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.229-242, 2018-11-30 (Released:2018-12-05)
参考文献数
12

本研究では, 主体的な学習を高める鍵となり得るメタ認知概念について, 社会性を加味した概念へと拡張し, それらの機能によって理科における資質・能力の育成に関わる問題解決活動の充実を図ることを目指した。具体的には, メタ認知概念の拡張に関して, Chiu & Kuo(2009)が提起した「社会的メタ認知(social metacognition)」の機能によってもたらされる5つの利益を援用し, 理科学習における問題解決活動の質の向上に関わる利益として捉え直した。その上で, それらの機能が問題解決活動にもたらす利益と併せて促進すると考えられる, 個人内メタ認知の活性化と科学概念構築の成立過程について, 小学校理科を事例に検討した。事例的分析の結果から, 社会的メタ認知の機能によってもたらされる5つの利益から, 問題解決活動の質の向上を捉えることが可能になった。さらに, 社会的メタ認知を通じた個人内メタ認知の機能の活性化が, 科学概念構築に寄与することが明らかになった。
著者
西内 舞 川崎 弘作 後藤 顕一
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.113-123, 2018-07-31 (Released:2018-08-22)
参考文献数
10

本研究では, 自己決定理論から動機づけを捉え「理科学習の意義の認識」が「相互評価表を活用する学習活動(以下, 相互評価活動と略す)への動機づけ」にどのような影響を与えているかについて明らかにすることを目的とした。本目的を達成するために, まず, 学習者が認識している「理科学習の意義の認識」と「相互評価活動への動機づけ」を測定するための質問紙を検討, 作成した。次に, 高校生を対象にこれらの質問紙による調査を実施し, 調査結果を基に「理科学習の意義の認識」が「相互評価活動への動機づけ」にどのような影響を与えているかについて共分散構造分析により明らかにした。その結果, 理科学習を通して, 学習者自身が, 「理科学習の意義の認識」を「科学的能力」が身に付くと捉えると, 「相互評価活動への動機づけ」のうち, 自律性の高い「同一化・成長」の動機づけに正の影響を与え, 自律性の低い「外的調整」には負の影響を与えていることが明かになった。また, 「理科学習の意義の認識」を「科学と身近な自然や日常生活の理解」と捉えると, 「相互評価活動への動機づけ」のうち, 自律性の高い「内発的調整」, 「同一化・成長」, 「同一化・将来」の動機づけに加え, 自律性の低い動機づけである「取り入れ・他者」にも正の影響を与えていることが明らかになった。つまり, 「理科学習の意義の認識」を「科学と身近な自然や日常生活の理解」と捉えると, 自律性の低い動機づけまで高めてしまう危険性が示唆されたと考えられる。
著者
原田 勇希 中尾 友紀 鈴木 達也 草場 実
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.409-424, 2019-11-29 (Released:2019-12-20)
参考文献数
27

本研究は,中学生の観察・実験に対する興味の構造を明らかにすることと,興味と学習方略との関連性について検討することを目的とした。確証的因子分析の結果,興味の構造として階層因子モデルが採択された。すなわち,観察・実験に対する興味は,“ポジティブな感情”の程度と,“観察・実験に対する価値の認知”の直交する2つの次元から捉えられることが示されたといえる。また,ポジティブな感情の程度と“思考活性志向”には観察・実験における深い学習方略(関連付け方略など)の使用を促進する効果が見出された。一方,“体験志向”は深い学習方略の使用を抑制する効果が見出された。さらに,本尺度の因子構造を反映した尺度得点の算出方法が検証され,分析用プログラムが作成された。
著者
濱保 和治 山崎 敬人 岡田 大爾
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.467-475, 2019-03-25 (Released:2019-04-12)
参考文献数
11

近年,教科を学ぶ意義や有用性についての意識の欠如とキャリア教育の重要性が指摘されている。平成20年9月「中学校学習指導要領解説理科編」においても,「日常生活や社会との関連」について理科で学習することが示され,理科学習でも教科内容との関連において,キャリア教育との関連を意識した指導を行うようになった。しかし,生徒の「日常生活との関連」についての意識は向上しているものの,理科学習の有用性を生徒自身に理解させることはできていない。そこで,大学との連携によって研究者が単元の学習内容に直接関わる授業を行い,社会貢献や職業選択のきっかけや夢などの話題を提供するといった教科学習に組み込んだキャリア教育を行うことで,教科学習の有用性を生徒が実感し,学習内容の深化を図るとともに将来の職業選択の可能性を広げることができると考えて,授業を計画・実施し,その効果を検証した。その結果,理科学習の有用性のうち職業生活への有用性や日常生活への有用性,及び日常生活との関連,学習意欲の向上に効果があることがわかった。
著者
名倉 昌巳 松本 伸示
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.397-407, 2019-11-29 (Released:2019-12-20)
参考文献数
17

本研究の目的は中学校の新入生に「生物多様性」の理解と,その多様性の解析手法である「進化思考」の形成過程を探ることにある。現行(平成20年改訂学習指導要領準拠)の中学校第1学年理科教科書における「生命編」の最初には,近隣のいろいろな環境に生息する「身近な生物」を観察しながら,顕微鏡の使い方など基本的技能の習得が目的とされてきた。平成29年改訂の新学習指導要領では,そこに「分類」の記述が加わり,「生物多様性」の理解が重視されるように改訂された。しかし,中学校現場では「身近な生物の観察」も通り一遍で終えられることが多い。そこで,新入生による初めての観察実習として,科学的な見方・考え方という観点を踏まえた授業を展開した。一方,「生物多様性の理解には進化に関する知識の習得が重要」であり,かつ「分類思考と系統樹思考を柱とした進化思考が多様性の解析手法の基盤である」という2つの提言がある。そこで,本研究ではその2つの提言に基づいて,「身近な植物」としてのタンポポの「分類」を手始めに,雑種タンポポ出現による「多様化」や,水中の小さな生物の「系統的分類」を事例に,進化の入門編を意図した授業を開発した。ワークシートの記述分析や質問紙調査の結果から,「生物多様性」や「科学的進化概念」の理解を一定程度促進することが明らかになった。
著者
髙山 真記子 大貫 麻美
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.363-369, 2014-11-17 (Released:2014-12-04)
参考文献数
8
被引用文献数
2

高等学校「生物Ⅰ」で単元「動物の生殖と発生」の学習終了時に, 「生命の連続性」概念系に関する理解を深めることを目的としたコンセプトマップ法の導入を行った。この実践は, 2010年から2012年にかけて3回行った。実践Ⅰでは, 異なる学習区分で扱った内容の関連に気づき1つのマップを作ることができなかった学習者(レベル1)が18.1%存在した。そのため, 実践Ⅱ及び実践Ⅲでは, 教師から予め, すべての概念ラベルがとぎれることなくつながるようコンセプトマップを作成するよう指示をした。その結果, 実践Ⅱでは96.3%が, 実践Ⅲでは100%の学習者が異なる学習区分で扱った内容間に「受精」という関連事項を見出し, 一つのマップを作ることができていた(レベル2)。循環する「生命の連続性」概念系を示す学習者(レベル3)も, 実践Ⅰでは1%であったが, 実践Ⅱでは約80%に増加し, 実践Ⅲも同様の結果であった。感想文の分析からは, 生命の連続性に関する情意面をも含む学びの成果や, コンセプトマップ法の有意味性に関する記述があることが分かった。