著者
田中 邦明
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.1-9, 2002-06-17
参考文献数
39
被引用文献数
2

我が国の現行の中学校理科教科書には,両生類の呼吸方法について,「オタマジャクシはえら呼吸し,カエルは肺呼吸(一部は皮膚呼吸)する」と記述されている。一方,カエル幼生の呼吸機能分担に関する最近の研究によれば,ヒキガエル類を除くカエル類のオタマジャクシ(無尾目の幼生)は,後肢が発達する変態期以前からすでに肺呼吸を始めており,オタマジャクシの肺呼吸は嫌気的水中で生き延びるのに役立っているという。また,系統進化の観点から,オタマジャクシの肺呼吸はセキツイ動物の肺の獲得と進化にかかわる痕跡的な行動とみられている。さらに,ふ化直後のオタマジャクシではエラ呼吸よりも皮膚呼吸の方が重要な役割を果たしていると考えられている。したがって,少なくとも「オタマジャクシはえら呼吸する」という見解は,厳密な意味では,誤りを含む一種のミスコンセプションとみなされる。オタマジャクシの肺呼吸は,すでに1931年にヨーロッパで発見され,1982年にはウシガエルの幼生で,肺と皮膚がエラとともに呼吸分担機能をもつことが明らかにされていた。しかしながら,オタマジャクシの呼吸についての不正確な扱いは,我が国の教科書や一部の専門書だけでなく,海外の生物学の専門書にもみられることが報告されている。このようなミスコンセプションが発生するメカニズムには,誤った教育時報の関与も考えられるが,魚類のような水生動物はエラ呼吸し,高等な陸生動物は肺呼吸するという,現生の脊椎動物についての認識から,両生類も水中生活のオタマジャクシはエラで呼吸し,陸上生活期のカエルは肺で呼吸するに違いないという演繹的推論が生まれやすいことも関与しているものと考えられる。このようなミスコンセプションを克服するためには,教育情報の訂正のほかに,オタマジャクシの呼吸生理実験を取り入れた教育プランの活用が必要と考えられる。
著者
山野井 貴浩 佐藤 綾 古屋 康則
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.285-291, 2018-11-30 (Released:2018-12-05)
参考文献数
22

「種族維持」とは生物は種を維持する, あるいは仲間を増やすために繁殖するという概念であるが, 現代の進化生物学では否定されている概念である。しかしながら, 小中高の理科学習を終えた大学生であっても「種族維持」の認識を有している可能性がある。そこで本研究は, 種族維持の認識を問う質問紙を作成し, 5つの大学に通う大学生629名を対象に質問紙調査を行った。その結果, 半数以上の学生が種族維持の認識を有していること, 高等学校生物の履修や大学における進化の講義はその認識に影響していないことが示唆された。また, 高等学校生物や大学における進化の講義を履修した学生の方が, 血縁選択説や利他行動について知っていると回答した割合は高いという結果が得られた。誤概念を変容させるために, これらの用語を扱う高等学校生物や大学の進化の講義の授業方法を改善していく必要がある。
著者
白數 哲久 小川 哲男
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.37-49, 2013-07-17 (Released:2013-08-09)
参考文献数
25
被引用文献数
1

本研究では,小学生の科学的リテラシー育成のために「科学的探究」学習による科学的概念の構築を図るための理科授業のデザインを,ヴィゴツキーのZPD理論と,米国のFOSSによる水平的カリキュラム設計を基盤とし,ZPDにおける「科学的探究」の教授・学習モデルと教師の役割を可視化し,その有用性を小学校第3学年「じ石」の授業実践によって検証することを試みた。その結果,「自由な探索」→「体験的な学び」→「科学的概念との結びつけ」といった水平的な授業デザインの中で,教師が子どもの生活的概念を呼び起こし,適度な困難さのある発問をし,適切なタイミングを見計らって「教材」「言葉」「方法」を提示することで,生活的概念間の相互作用による再構成が起こるとともに,子どもが科学的概念への意識化を図りうることが示唆された。
著者
永井 秀樹 川北 一彦
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.35-43, 1999-07-31
参考文献数
9
被引用文献数
3

小学校理科「電気のはたらき」の単元で,電流,または,電気に関する子どもの考え方について調査・分析した。初めの段階は,豆電球,モーター,乾電池,及び簡易検流計による観察・実験の結果に対して,粒や矢印による電流モデルを用いて子どもの考え方を描かせた。観察・実験の直後は消費(減衰)モデルが一時的に減少するが,時間が経過すると,また元へ戻ってくる子どももみられた。観察・実験と話し合いを繰り返す中で,「使えば電池が消耗する」という日常経験と,「豆電球(またはモーター)の前後で電流が変化しない」こととの矛盾が消費モデルが復活する原因らしいことが分かった。そこで,電池まで含めた子どもが考えたモデル「電気マンモデル」「カミナリ君モデル」等を活用することが有効であることが分かった。これらのモデルは,電池の直列・並列つなぎの場合に対しても有効なモデルであった。
著者
吉田 美穂 川崎 弘作
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.185-194, 2019-07-31 (Released:2019-08-29)
参考文献数
29
被引用文献数
1

小学校の理科授業の多くは「なぜ」という疑問を見いだす場面から学習が開始される。しかしながら,「なぜ」という抽象的な疑問のままではその後の探究活動につながりにくく,このような疑問を,探究の方向性を意味づけるより具体的な問いに変換する思考力が学習者には求められる。本研究では,このような疑問から問いへ変換する際の思考力の育成を目指すにあたって,疑問から問いへの変換過程における思考の順序性を明らかにするための調査および分析を行った。その結果,疑問から問いへ変換する際の思考の順序性(主として「問題状況の確認→既有知識の想起→要因の検討→仮説の形成→問いの設定」)が明らかになった。さらに,この過程を仮説を形成するまでの問題解決過程として整理すると,先行研究における問題解決過程「疑問の認識→問いの設定→仮説の形成」とは異なり,「疑問の認識→仮説の形成→問いの設定」と整理することができた。
著者
中村 大輝 松浦 拓也
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.279-292, 2018-03-19 (Released:2018-04-06)
参考文献数
47
被引用文献数
7

理科における問題解決や探究の入り口として, 学習者自身に仮説を立てさせることの重要性が指摘されている。一方, 仮説設定に関する先行研究においては, 学習者が仮説を設定する際の思考過程の実態が明らかにされてこなかった。そこで本研究では, 仮説設定を求める調査問題を6問作成するとともに, 大学生・大学院生を対象とした面接調査を実施した。結果の分析に際しては, まず, 発話プロトコルから思考過程を推定し, その内容によって6つのカテゴリーに分類した。次に, それらのカテゴリー間の推移を集計し, 仮説設定には共通した思考過程が存在することを明らかにした。また, 思考過程の合理性を得点化し, 思考過程との関係性を検討した結果, 変数の同定過程においては複数の変数の吟味が, 因果関係の認識過程においては因果関係の慎重な検討が合理性に正の影響を及ぼすことが明らかになった。
著者
松森 靖夫 一瀬 絢子
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.271-277, 2015

本研究では, 計121人の小学校教員志望学生を対象に, 月の見かけの位置と観測時刻に関する認識調査を行った。具体的には, 計7種類の月の見かけの形(三日月, 上弦の月, 十二日月, 満月, 十八日月, 下弦の月, 及び二十六日月)を取り上げ, 夜間の肉眼観測によって見えはじめる位置と時刻, 及び見えなくなる位置と時刻について問うものであり, 質問紙法を用いて実施した。<BR>調査の結果, 科学的に認識できていた小学校教員志望学生は, 満月において約5%であり, 他の6種類の形においては皆無であった。また, 月の見かけの位置と観測時刻に対する小学校教員志望学生のプリコンセプションも認められた。
著者
中村 大輝 雲財 寛 松浦 拓也
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.183-196, 2018-11-30 (Released:2018-12-05)
参考文献数
64

本研究は, 理科の問題解決における仮説設定に関する国内外の研究を収集・整理し, 国内外の差に留意しつつ, 研究の動向や課題を明らかにすることを目的とした。仮説設定に関する研究を, 「仮説の定義」「実態の評価」「思考過程」「指導」の4観点から整理し, 各観点における研究の動向や課題を検討した結果, 主に次の4点が明らかになった。1)仮説の定義の多様性は, 仮説の定義を構成する要素全体に見られるものではなく, 説明する対象の違いに由来するものであること。2)仮説設定の評価方法は, 国内外で用いられる方法に傾向差が存在すること。3)思考過程に関する研究では, 実際の理科授業における仮説を設定する際の思考過程を捉えられるよう改善を図る必要があること。4)国内における指導方法研究はその具体性で国外の研究に勝るものの, 各指導方法には課題も存在すること。
著者
佐々木 智謙 佐藤 寛之 塚原 健将 松森 靖夫
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.39-51, 2019-07-31 (Released:2019-08-29)
参考文献数
28

本研究の主目的は,腹面から描いた昆虫の体のつくりに対する小学校第2・3学年の認識状態を分析し,その結果に基づき,育成すべき子どもの資質・能力について検討を加えることにある。得られた知見は,以下の4点である。1)腹面から描いた計9種類の生き物を,昆虫とその他の生き物とに分類できた小2は約60%以上,小3は80%以上であったこと。2)腹面から描いた計6種類全ての昆虫の体を三つの部分(頭部・胸部・腹部)に正しく分けることができた小2は皆無であり,小3でも約20%であったこと。かつ,各昆虫の正答率は小2で10%未満,小3でも65%未満であったこと。3)昆虫の体のつくりに対する回答は多様であり,頭部で4類型,胸部で9類型,及び腹部で3類型が存在したこと。4)得られた結果をもとに,昆虫概念の育成を志向した学習指導方策について提案した。
著者
久坂 哲也
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.397-408, 2016-03-19 (Released:2016-04-23)
参考文献数
59
被引用文献数
3

メタ認知は学力や動機づけ, 学習方略などと密接な関係にあるため, 我が国の理科教育学研究においてもメタ認知を対象とした研究が数多く見受けられるようになった。しかし, メタ認知の重要性は多くの研究者が認めるところであるが, メタ認知は高次な認知機能であると同時に抽象的な概念であることから研究の遂行が困難な側面も併せもっている。 そこで, 我が国の理科教育学研究におけるメタ認知研究の動向と課題を明らかにするため, 代表的な学術誌から文献を収集して分析を行った。その結果, 観察や実験活動を中心とした理科学習場面における児童生徒のメタ認知的モニタリングやメタ認知的コントロールといったメタ認知的活動を発問や教材教具の工夫によって直接的に促す授業設計や学習方略に関する研究が盛んに行なわれており, 実践的な知見が蓄積されていることが示された。しかし一方, 科学的思考や科学的探究といった科学的な問題解決能力を育成する際に必要なメタ認知的知識の種類やそれらを獲得させるための教授方略に関する研究といったメタ認知の知識的側面に着目した研究が少ないことが明らかになった。また, メタ認知を変数として扱った場合の測定方法に関しても課題が残されており, 今後の研究が待たれるところである。
著者
山下 修一
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.125-132, 2007-07-31

千葉県長期研修生の研究報告書の特徴を探るために,過去20年間の資料を5年ごとに4ブロックに分けて分析した。その際に,千葉県教育研究集会(理科)の研究レポート,学会誌である理科教育学研究と比較した。長期研修生研修報告はタイトル・仮説の記述・研究方法,千葉県教育研究集会での研究レポートはタイトルと仮説の記述,理科教育学研究はタイトルについて,データベース化して比較分析した。その結果,長期研修生研修報告の特徴として以下の4点が明らかになった。(1)タイトル末表現は,1986-1990年度では「教材化」と「検討」が多く用いられていたが,2001-2005年度には「在り方」が増加して57.1%のタイトルに用いられていた(2)タイトルに含まれるキーワードは,1986-1990年度では「調査」が多く含まれていたが,2001-2005年度には「学習」が増加して75.0%のタイトルに含まれていた(3)仮説については,千葉県教育研究集会での研究レポートには1987年度当初から記述があったが,長期研修生研修報告には1994年度から記述されるようになった(4)研究方法については,事前・事後調査によって授業を検証しているものが,1986-1990年度から2001-2005年度にかけて増加していた
著者
榊原 保志 小高 正寛
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.35-44, 2007-11-30

本論はペットボトル簡易気圧計を用いた気象観測実習の新しい方法を提案した.階段を上り下りすることにより,ペットボトルに剌したストロー内の水面の変化から気圧の変化を読み取る実習である。気圧が減少/増大するとストロー内の水面は上昇/下降する。校舎の各階で気圧を観測した結果,各々の階と1階の気圧差には比例の関係があり,4階と1階には1 hPa以上の気圧差が認められた。階を上り下りする際に生じる気圧の変化量でも,水面の変化は十分読み取ることができた。気温の変化がなく,1 hPaの気圧の変化があったときの水面の変化について理論的に考察を行ったところ,ストローの半径が小さいほど,ペットボトルに入っている空気の体積が大きいほど,ペットボトルに入れる液体の密度が小さいほど水面の変位は大きくなることが分かった。エレベーターによって1階と4階を移動する実験でもおおむね同様な結果が得られた。この簡易気圧計を用いた授業を琉球大学教育学部附属中学校において実施した結果,多くの生徒が水面の変化を確認できたこと,この教具は役立ち実習が楽しいと感じたこと,そしてこの実習は天気の学習に意欲を高めることなどが分かった。
著者
松森 靖夫 上嶋 宏樹
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.99-106, 2009-03-13
被引用文献数
1

本研究の目的は,以下の2点である。(1)小学校教員志望学生の天文学的資質を高めるために,太陽から放射される可視光線を題材にした学習指導資料を作成する。(2)作成した学習指導資料の効果(太陽から放射される可視光線に対する小学校教員志望学生の認識状態が改善されるか否か)について検討を加える。その結果,以下のような知見を得たので報告する。(1)計7ステップからなる学習指導資料を作成できたこと(ステップ1:2種類の"モノの見え方",ステップ2:太陽はなぜ見える?,ステップ3:太陽の可視光線はどこから出てる?,等)。(2)作成した学習指導資料の効果が実証され,小学校教員志望学生の天文学的資質に改善が認められたこと(本学習指導資料が,太陽から放たれる可視光線に関する認識の向上に寄与できたこと)。
著者
杉尾 幸司 吉田 安規良 本多 正尚 松田 伸也
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.115-122, 2008-11-30
参考文献数
3
被引用文献数
1

児童生徒の理科に対する興味・関心等を育成することを目的として合宿形式の学習活動「中学生サイエンスサマーキャンプ」を実施した。実施内容として,森林内部の動植物の夜間生態観察やマングローブ林の生物観察,天の川と星座の観察,小型天体望遠鏡での木星・星雲の観察,地層の観察,タンパク質と脂肪の消化実験を計画した。沖縄県のように豊かで特色のある自然環境を持つ地域においては,生物観察などの野外活動は大変魅力あるプログラムであるが,日程の変更が容易でない宿泊型体験学習において,野外活動を主体とした計画は,天候に依存するリスクが大きくなる。今回の取り組みにおいても,実施当日は台風接近による悪天候にみまわれたため,夜間生態観察の代わりに室内でのスライドを使った講義を,星座観察の代わりに天体望遠鏡の構造や天球儀を用いた天体のみかけの運動についての講義を行うなど,実施内容の一部を代替プログラムに変更した。天候の影響を受けやすい内容に関しては,効果的な代替プログラムについても十分に検討する必要がある。全日程終了後のアンケート結果からは,取り組み内容の「おもしろさ」「わかりやすさ」に関して高い評価が得られた。また,「全体の印象」「来年の参加」などの項目についても高い評価が得られるなど,実施内容は参加者に高く評価された。大学が今回のような取り組みを通して地域社会への貢献により積極的に取り組むためには,現実に即した支援体制の充実が強く望まれる。
著者
佐藤 寛之 森本 信也
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.29-36, 2004-09-17
被引用文献数
1

Head,J.O.,Sutton,C.R.は,「科学概念におけるメタファー表現は,個人の認知・情意・レトリックが融合したものである。」としている。つまり丿情意的なこだわりを持ち,類推することで新しい概念の構築がなされていることを示している。子どもにおける自然事象の概念を表現する能力を養うため,理科授業においてはこうした視点に立つ類推のような論理の構築方法を学ぶ学習場面が必要である。同時に このことは情意と認知が融合した「温かい認知(warm cognition)」の有用性を示すものであり,理科の授業デザインにおける必須条件と考える。
著者
小林 丈芳 跡部 紘三 松川 徳雄 福岡 登
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.21-30, 2001-03-31

原子力・放射線教育の在り方を考えていくために,地域の生活環境が青少年の原子力等の知識やイメージにどのような影響をもたらすかを明らかにする目的で,徳島県と原子力発電所のある福井県敦賀市の中学生・高校生を対象に「エネルギー・原子力等に関するアンケート調査」を行なった。その結果,彼らの原子力・放射能・放射線に対する知識やイメージ等に関して次の点が明らかになった。現代社会において,徳島県の生徒は「火力」,敦賀市の生徒は「原子力」を最も重要なエネルギー資源と考えているのに対し,21世紀の社会では両地域の生徒共に「太陽熱・太陽光」を重要であると考えている。(2)同地域の生徒の多数が原子力・放射能・放射線についての知識をマスメディアから得ている。徳島県の生徒は「中学校」,敦賀市の生徒は「博物館・展示会」「家庭」から得たと回答した割合が高い。(3)原子力・放射能・放射線の知識に関して,徳島県の生徒は「原子爆弾」,敦賀市の生徒は「原子力関連施設」や「核燃料」に関連した用語や知識の回答が多い。また,敦賀市の生徒は,原子力等に対して「危険」とイメージする傾向にある。(4)エネルギー資源として女子は「太陽熱・太陽光」を重要であると考えている。また,原子力等の知識やイメージにおいて,男子は「危険」,女子は「原子爆弾」「有害」「恐い」「レントゲン」などを回答する傾向にある。これらの要因として,男女の知識量や感性の違い,胎児への悪影響に対する意識の違いなど教科教育以外の要因が考えられる。(5)(2)(3)より,知識の習得に関して,徳島県の生徒は中学校における平和学習,敦賀市の生徒は自治体や企業による啓発活動の影響を強く受けているものと考えられる。
著者
遠西 昭寿 福田 恒康 佐野 嘉昭
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.79-86, 2018-07-31 (Released:2018-08-22)
参考文献数
27
被引用文献数
4

「主体的な学習」においては, 行為や具体的操作よりも心的・認知的な意味での主体性が問われなければならない。本研究の目的は, 観察・実験における主体的探究者としての科学者と授業における学習者の認知的活動を比較して, その差異から授業を改善することである。その結果, 観察や実験の結果の考察においては, 観察・実験が確証をめざす当該の理論のみならず, その理論を含む理論体系の全体が学習に先行して概観されていなければならないことを示した。さらにアプリオリな理論体系の存在は, 問題の発見から仮説設定, 観察・実験の方法の決定といった一連の過程においても必然であることを示した。すなわち, 観察や実験で演繹されるべき理論(仮説)のみならず, 学習の成果として期待される理論の体系的全体の概観が, 当の学習の前提であるという循環論である。本論文ではこの問題を解決する具体策として, 教科書記述の改善と現在の教科書を使用した対応の方法を提案した。
著者
西内 舞 川崎 弘作 雲財 寛 稲田 結美 角屋 重樹
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.615-626, 2020-03-30 (Released:2020-04-15)
参考文献数
25

本研究では,学習者の理科学習の動機づけ向上のために「科学的能力」から「理科学習の意義」を認識する学習指導法を考案し,その効果を検証することを目的とした。そして,「科学的能力」について直接教授する学習と,普段の理科の学習の中で科学的能力を身に付けていると学習者自身に意識させる学習の二つからなる学習指導法を考案し,高校1年生を対象に,その効果を検証した。その結果,学習者が「科学的能力」を「理科学習の意義の認識」として認識すると,自律性の高い動機づけのうち「内発的調整」,「同一化・将来」,「同一化・成長」を向上させる指導法として有効であった。
著者
齋藤 惠介 原田 勇希 草場 実
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.107-117, 2020-07-31 (Released:2020-07-31)
参考文献数
27

近年,興味をポジティブ感情(強度)と価値の認知(深さ)から捉える理論的枠組みが提唱されており,強度と深さを望ましい状態に導くことが重要である。また,これまでの大規模調査より,我が国の生徒は理科全般に対する興味の強度に課題があることが示唆されているが,観察・実験に対する興味の強度は比較的良好に保たれていることが明らかになっている。そのため興味に介入する場合,観察・実験を足掛かりにすることが考えられるが,強度と深さのどちらを先行して育成すべきであるかについて未検討な点が多い。そこで,本研究では観察・実験に対する興味の強度と深さに注目し,理科全般に対する興味の強度との関連を検討することを目的とした。結果より,“理科学習に対するポジティブ感情”と“観察・実験に対するポジティブ感情”は別因子として抽出できたため,両興味は並存しえる構成概念であるといえる。また,生徒の観察・実験に対するポジティブ感情が低い状態で深い価値の認知に介入することは,理科全般に対するポジティブ感情をより低減させてしまう可能性が示唆された。このことから,教師は生徒の観察・実験に対するポジティブ感情の強度に応じて,興味の深さに介入していく必要があるだろう。
著者
島村 裕子 増田 修一
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.81-88, 2017-07-18 (Released:2017-08-04)
参考文献数
10

本研究では, 理科教育における花粉管の伸長を観察できる植物およびその最適条件を明らかにするために, 花粉管の伸長観察に適した植物の探索を行った。その結果, ホウセンカの花粉は, ショ糖濃度10%で最も発芽率が高かった。一方, サルスベリ, モクセンナおよびチャノキにおいては, ショ糖濃度15%において最も花粉管の伸長が認められ, いずれの植物においても0.5%のエタノールを加えることで花粉管の発芽率が高くなる傾向が認められた。また, 薬包紙に包んだ花粉をシリカゲルとともに密封容器に入れ, 乾燥条件下で家庭用冷蔵庫にて, 6ヶ月間冷凍保存したところ, ホウセンカおよびモクセンナの花粉は, 寒天培地に付着10分後に発芽を開始し, 冷凍前と同程度の花粉管の伸長速度が保たれていた。チャノキおよびサルスベリでは, 発芽までに30分から1時間を要したが, 授業の前に花粉を培地につけておけば, 授業時間内に花粉管の伸長を観察できることが示唆された。マリーゴールド, ジニアリネアリス, ヒャクニチソウ, センニチコウおよびヒオウギスイセンは, 花粉管の伸長観察には適していなかったが, 花粉が学校でよく扱われる植物とは異なる形状をしていることから, 理科教材として興味深く観察することができると考えられた。これら本研究で明らかにした花粉管の観察およびその伸長に適した植物およびその条件に関する情報は, 花粉管の観察・実験への利用・応用に資することが期待される。