著者
伊佐敷 隆弘
出版者
宮崎大学
雑誌
宮崎大学教育文化学部紀要. 人文科学 (ISSN:13454005)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.1-11, 2008-09-30

出来事の同一性の基準に関する代表的な3つの提案はいずれも難点を抱えている。即ち,クワインの時空基準は,複数の出来事個体が同一時空領域に存在する可能性を確保できず,他方,キムの性質例化基準は,同一の出来事個体に複数の記述を与える可能性を確保できない。デイヴィドソンの因果基準は,両方の可能性を確保できるが,個別のケースがこれら2つの可能性のうちのどちらであるかを決定する根拠を提供できない。### 出来事の同一性が問題となる微妙なケースの検討から判明するのは,「出来事個体が物個体と事実との中間的な存在性格を持つ存在者であること」,および,「出来事の同一性はそれを記述する我々の視点に或る程度依存していること」である。我々は,各出来事個体の間に「重複」「修飾」「因果」「評価」などの多様な関連付けを与え,出来事のこのネットワークを頼りに各出来事個体への指示を行なっている。我々によるこのような指示の営みを通して出来事個体のネットワークは作り上げられ維持されていく。出来事の同一性の基準は単一ではなく,また,出来事に関する同一性基準は同一性判断に常に先行するとは限らない。

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