著者
野村 史織
出版者
工学院大学
雑誌
工学院大学共通課程研究論叢 (ISSN:09167706)
巻号頁・発行日
no.45, pp.37-51, 2007

メディアテクストの解釈については,テクストやテクストが記される場(文書)の質・文脈・制限についてだけでなく,テクストが生産・解釈・消費されていく過程など,多面的な要素が複合的に分析されるべきだといわれてきた。そこで,本稿は,「言説」に関する最近の新たな理論を論じ,メディア研究のテクスト分析へ新たな視点を提示することを目的とした。まず,本稿は,メディア研究の伝統的な手法である量的内容分析の利点と客観性などの問題点を提示し,多くのメディア研究が質的内容分析の手法を取り入れるようになった経緯を示した。次に,テクスト分析に関するこうした質的研究のアプローチや理論が,「言説」という概念に依拠していることを明示した。もともと言語学で生まれた「言説」という概念は,社会・政治・経済・文化的文脈において様々なテクストが生産・解釈されることを含め,発話と認識の多様で変動的な社会実践と意味を指している。この「言説」理論に関して,メディア研究に多くの影響を与えたフーコーの言説と権力・社会の議論,グラムシの文化ヘゲモニーの理論に焦点を当て,言説が政治的性質を有していること,そして,変動し多様な社会背景・権力関係と絡み合って,言説が形成・表象・解釈されること,また言説的実践を通じて,社会的文脈や権力関係が構築されたり,当然のものとして社会で「自然化」されたり,変化させられたりする過程への視座を提示した。最後に,こうした視点を取り入れたメディア研究のテクスト・言説分析の例として,批判的言説分析を紹介し,多様なメディアテクストを分析するための新たな視点を論じた。

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