- 著者
-
井上 雅子
- 出版者
- 一般社団法人電子情報通信学会
- 雑誌
- 電子情報通信学会技術研究報告. CQ, コミュニケーションクオリティ (ISSN:09135685)
- 巻号頁・発行日
- vol.108, no.137, pp.21-25, 2008-07-17
タンチョウはアイヌの人々に「サルルン・カムイ」(湿原の神、ヨシ原の神)と呼ばれ、大切にされてきた。江戸時代までは北海道各地の湿地にいたと考えられていた。しかし、明治に入ると、北海道の開拓による営巣地の減少、狩猟による乱獲により、1900年頃には「絶滅した」と言われた。ところが、1924年、釧路湿原の一角で10数羽のタンチョウが「再発見」され、1935年には国の天然記念物に指定、さらに特別天然記念物となって今日に至っている。1950年頃から冬の給餌活動が始まり、現在は1200羽をこえるタンチョウが生息している。しかし、現在でも、生息地である湿原が減っている、交通事故や電線への接触事故など新たな危険にも曝されており、絶滅する危険性がある。本講演では、北海道に生息する野生動物の保護活動について紹介する。今後もずっとタンチョウとともに暮らしていくためには、その生態を知り、彼らにとって本当に必要なことは何かを考えて行動することが必要である。これは、タンチョウに限らず、道東にかろうじて残された野生動物すべてに言えることであり、彼らが生きていくことのできる自然を保全することが、めぐり巡って、人間の暮らしを豊かにすることにつながるのである。