- 著者
-
福田 晴夫
- 出版者
- 日本鱗翅学会
- 雑誌
- 蝶と蛾 (ISSN:00240974)
- 巻号頁・発行日
- vol.59, no.2, pp.103-106, 2008-03-30
- 参考文献数
- 11
マダラチョウ亜科の幼虫は毒々しい斑紋により身を守ることが知られ,斑点型,縞模様型,その混合型に大別されるが,ルリマダラ属には3例(ルリマダラ,ミダムスルリマダラ,バテシイルリマダラ)ながら無紋で警告斑紋を持たない幼虫がいる.では彼らはいかにして身を守るのか.本報では台湾産ルリマダラの観察例を主にしてこの問題を論ずる.台湾の苗栗県竹南濱海森林公園における2006年4月の野外観察,およびその後の飼育時の観察によると,幼虫(とくに中-終齢)の防衛行動は次のようなものである.(1)隠ぺい的行動:休息時,頭胸部を釣針型に丸め,突起を倒して静止している.(2)威嚇的行動:ものに驚くと,体と突起を激しく震わせて威嚇する.(3)転落行動:威嚇の後,身体前半を内側に曲げたまま仰向けに反り返るようにしてして落下する.これらは多くのマダラチョウ類にも見られるものではあるが,それらの転落は強い接触刺激を受けた時であり,幼虫のこれほど激しい威嚇行動はない.しかるに,本種は人が撮影に近づいただけで何らかの刺激を感知し,激しく威嚇した後すぐに転落した点が特徴的である.これには単色で細長い体形と長い突起という形態的特徴と深く関わっている可能性が高い.もちろん,単なる転落行動なら草食性幼虫のほか造巣性幼虫でもみられ,警告色斑紋の幼虫にもみられるものであるが,ルリマダラ属の中で少数種のみが,なぜこのような戦術をとるのか興味深く,本格的な調査が期待される.