著者
大石 和欣
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.107-118, 2008

1780年代から社交界のお騒がせなセレブとして注目を浴びたロビンソンだが、感性と詩才に恵まれた詩人であり、小説家としても活躍していた。彼女が最晩年に書いた「亡霊たちの浜辺」は、そうした彼女の詩的資質をもっとも典型的に示していると同時に、女性として、また詩人として彼女が置かれた不安定な環境を多分に反映したものである。シャーロット・スミスが顕著に示した女性的な感受性言語の残響を内にとどめながら、コウルリッジの「老水夫行」から題材や主題を借用している点で非独創的だが、斬新な韻律によって女性としての不安と孤独を吐露している点で独創性を確保している。詩の不均質な言語と不統一な語りの声は、詩のテクスト内の分裂を生んでいる。さらに、そこには、実生活や経済、ジェンダーのすべてにわたって不安定に動揺し続けるロビンソンの苦悩が潜んでいるだけではなく、18世紀末の社会において女性一人の力で生きようとした女性たちが直面したジレンマと実存的な不安が映し出されている。中途半端な言語と語りは、同時代の詩人との間テクスト的交渉の上に成り立った、分裂し、動揺し続ける女性のアイデンティティの姿なのである。

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