著者
大石 和欣
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
no.23, pp.65-78, 2005

本論考はアンナ・リティシア・バーボールドの政治的・詩的言説に看取できる「公共心」の輪郭を、18世紀後半から19世記前半にかけての歴史的背景の中で画くことを目的とする。バーボールドの「公共心」は、慈善活動や政治運動という領域の中で普遍的善意という道徳的美徳を実行していたユニタリアン文化のなかに深く根ざしているのは間違いない。しかしながら、女性としてバーボールドは、ジョゼフ・プリーストリーやギルバート・ウェイクフイールドのような男性ユニタリアンと同じ立場に立って議論をしたわけでもない。男性的な「理性的非国教徒」と一定の距離を保ちながら文学的・政治的アイデンティティを築き上げなくてはならなかったのである。この「2重の異議者」ともいうべき立場は、彼女を極めて曖昧な存在にしている。慈善に関する言説を吟味すると、非国教徒男性の言説とも、またウィルバーフォースやハンナ・モアといった国教会福音派とも、イデオロギーの点で両義的な位置を保っていることがわかる。スタイルや内容からいって彼らのものと重なるところもあるが、しかし、その根底には女性化したユニタリアン的美徳である公平無私な善意が流れているのである。この論考においては、バーボールドの言説に浸透している曖昧な「公共心」を、まず女性的な感受性言語文化の中で、つぎに慈善、教育、政治活動といったユニタリアン的'philanthropy'の領域で、そして最後に奴隷貿易廃止運動と絡めて吟味することにする。

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バーボールドがハードボイルドに見えて「!?」となったがそれを抜きにしても気になる http://t.co/KilwdH8i

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