- 著者
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芝木 儀夫
- 出版者
- 精華女子短期大学
- 雑誌
- 精華女子短期大学研究紀要 (ISSN:13495453)
- 巻号頁・発行日
- vol.33, pp.47-54, 2008-03
印刷術の発明は、文字の発明や電気通信とともに情報革命ともいえ、大量に情報を複製する技術である。グーテンベルグは活字印刷の創始者として有名である。本論で紹介するクリストファー・プランタンは、創意あふれる出版活動と可読性の高い印刷技術により、メディアの事業を発展・成功させた。プランタンが活躍したのは、ベルギーのアントワープである。 16世紀の当時、当地はハプスブルグ家が支配するスペイン領ネーデルランドとよばれていた。そして、スペインによる経済的圧政や宗教弾圧などに抗議して、ネーデルランド独立運動が繰り広げられていた。大航海時代の本格的な到来により、アントワープは産業や貿易、印刷業の中心地になっていた。プランタンは、はじめ革細工や製本の職人を目指したが、暴漢に襲われて大けがをしてから印刷業に転じた。その後、高度な技術力と幅広い人脈で事業を拡大していき、1575年の最盛期には20台以上の印刷機と約80人の職人を雇っていた。これは当時の印刷業として異例の規模であった。彼は印刷出版で名を成した後、たびたび宗教上の異端審問に付された。しかし、そのたびに友人の支援により一時避難をしたり、自らの努力で支配者に対峙したりしてその危機を乗り越えた。その過程で、「多言語対訳聖書(ポリグロット・バイブル)」という画期的な印刷物を生み出した。プランタンの人生は、まさにその商標に謳われる銘句「努力と堅忍不抜」で語られる。プランタンの最後の工房及び住居は現在、「プランタン・モレトゥス博物館」としてアントワープで一般に公開されている。