- 著者
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渡辺 実
- 出版者
- 地域安全学会
- 雑誌
- 地域安全学会論文報告集
- 巻号頁・発行日
- no.2, pp.107-116, 1992-05
1992年2月2日午前4時4分、東京は6年ぶりに震度5(強震)の地震に見舞われた。この明け方の地震で、マスコミは何を伝えたのか、在京のテレビ・ラジオ局の災害放送の手腕を問われた地震であったが、果たして実態はどうであったのか。本論分は、地震発生直後、テレビ・ラジオの各媒体で数時間にわたって特番体制をとったNHKとニッポン放送の災害放送の実態を検証し、その問題点を検証した。地震直後の各局がとった対応は、NHKテレビが火起こしのあと4時6分には放送を開始、7分にはスタジオからテレビ・ラジオ5波同時放送で午前6時まで災害放送を行った。他のテレビ各局は、スーパーのみの対応がほとんどであった。民法ラジオ局の中でニッポン放送は、生放送中である「オールナイトニッポン」の番組を組み替え、午前7時まで3時間にまたって災害放送を行った。地震直後、火起こしから素早い対応を見せたNHKは、地震発生から6分後の4時10分まで「東京の震度は3」と報じた。この震度報道を見た人は「たいした地震ではない」と思い、再び布団に入った人も多く、問題なのは震度5以上で非常収集がかかる防災要因の参集が遅れた現象が見られたことである。また、幸いにも今回の地震では津波が発生していないが、もし津波が発生していたらと思うと、ぞっとする出来事である。地震発生から1時間の放送内容を分析すると、第1報で伝えなければならない「火の元注意、津波注意に関する事項」が忘れられており、NHKにおいては各地の震度のくり返しと、断面的な情報の羅列が目立ち、多くの課題を残した災害放送の内容であった。ニッポン放送の放送内容もNHKと同様な問題を持っているが、入試に係わる交通情報を伝える等、地震情報をリスナーの生活感覚とつながりを持った内容で伝えている点は、評価に値する。さらに、午前5時からのニッポン放送は、緊急出社している社員に途中の駅から状況をリポートさせる等、「面」の災害放送の試みがなされた。これは、今から3年前のロマプリエタ地震時の教訓から我々が学んだ、「面の安心情報」への第一歩を踏み出したものと言えよう。