- 著者
-
伊佐敷 隆弘
- 出版者
- 宮崎大学教育文化学部
- 雑誌
- 宮崎大学教育文化学部紀要 人文科学 (ISSN:13454005)
- 巻号頁・発行日
- no.21, pp.1-16, 2009-09
「自然法則から因果的決定論は帰結しない」ということを示す。因果的決定論とは, 過去の確定性から, 因果の鎖を介して, 未来の確定性を導き出そうとする主張であるが, そのためには, 自然の斉一性(「未来は過去に似る」), 因果律(「どんな出来事にも原因がある」), 行為者因果の不可能性(「行為者を最初の原因とする因果関係はありえない」) が必要である。しかし, これらすべてを認めたとしても決定論は帰結しない。なぜなら, そもそも自然法則が成り立つためには背景条件(産出条件の現存と妨害条件の不在) が必要であり, 背景条件をあらかじめすべて特定することは不可能かつ不必要だからである。つまり, 自然法則は, 背景条件抜きでは, 未来に向かって因果の鎖を形成できるほど結果を一通りに決定する力を持たず, 自然法則の例外許容的性格と決定論の細部決定性の間のギャップは未来に関しては埋めることができない。なお, 関連する背景条件の総計を原因とする法則(完全法則) が仮にあれば因果的決定論は成り立つが, 既知の自然法則の内に完全法則はない。また, 完全法則は出来事を説明する力を持ちえないから「法則」として認めることはできない。