著者
三雲 夏生
出版者
慶應義塾大学
雑誌
哲學 (ISSN:05632099)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.267-285, 1958-11

今日の誠実な良心はわれわれの世紀における人間の危機、あるいは人間存在の根幹にまで達する非人間化の傾向に対してその関心のすべてを集約しないわけにはいかない。人間を本来の人間につれ戻し、人間的生によみがえらせるということが、今日のもっとも急を要する思想的、社会的、政治的課題であり、われわれのもっとも深い倫理的問のむかうところもまさにこの問題の周辺をおいてはありえないこともたしかであろう。人間の運命を知り、人間の実践を指導し、人間の幸福をはかることを目的とする倫理学が、われわれを現におびやかしているこうした問題にかかわらない次元で論ぜられるなら、それは無用以外の何ものでもなかろう。以下に素描する人格主義の試論も、このような現代人に本然な倫理的問への一つの接近を企てたものに外ならない。

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