- 著者
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原田 信之
- 出版者
- 新見公立短期大学
- 雑誌
- 新見公立短期大学紀要 (ISSN:13453599)
- 巻号頁・発行日
- vol.28, pp.202-215, 2007
平安時代初期に、南都法相宗興福寺の高僧玄賓は、僧都職を辞して備中国哲多郡湯川寺に隠遁した。そのため、備中国各地には玄賓開基の伝承を持つ複数の寺院が存在している。備中国湯川寺は現在の岡山県新見市にある。新見市には玄賓開基伝承を持つ寺院が湯川寺、大椿寺、四王寺の三ヵ寺あり、それぞれに興味深い伝説が伝えられている。これら玄賓にまつわる諸伝説は、伝承地周辺の人々に玄賓がどのようにとらえられてきたかをうかがうことができるものであり、文献資料の間隙を埋めるものとして、玄賓像の一端を語る参考資料となりうるであろう。新見市にある三ヵ寺の事例は「玄賓隠遁地伝承圏」をめぐる問題等を検討する際にも重要なてがかりを与えてくれるものと考えられる。