- 著者
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寺本 明子
- 出版者
- 東京農業大学
- 雑誌
- 東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
- 巻号頁・発行日
- vol.54, no.4, pp.292-298, 2010-03-15
産業革命により19世紀英国社会は未曽有の経済的繁栄を成し遂げたが,反面,社会構造に歪みが生まれ,負の遺産とも言うべき影響を,一般社会のみならず宗教界にも与えた。こうした社会情勢の中で1833年に始まったオックスフォード運動は,宗教界の体質改善を求め,英国国教会の惰眠状態を改革しようとするものであった。結局この運動は挫折したのだが,1863年にオックスフォード大学に入学したジェラード・マンリー・ホプキンズ(Gerard Manley HOPKINS)は,在学中,かつて運動の立役者であったピュージーやリドンの影響を受け,更に,カトリックに改宗したニューマンの著書を通して自身の信仰を見直すこととなった。そして彼は,1866年にニューマンの導きでカトリック信者となり,後に,カトリック修道会の中でも一番厳しい信仰生活を求めるイエズス会に入る。ホプキンズの改宗前の初期の詩は,英国国教会の家庭に育った素直な信仰を謳うものから始まり,次第にカトリック改宗に向けての彼の信仰上の苦悩が表れるようになる。その中の一つ"The Nightingale"を精読することによって,船乗りの夫を海で亡くす妻の姿を描きながら,国教会との決別を意識するホプキンズの心情を読み取る。